私は今、とても幸せだと思う。人生史上、一番いい自分は今の自分だと思うからだ。
ただその裏側で、この幸せが脆くてすぐ消えてしまうものなのではないかと思っているところがある。私はそこに漠然と不安を感じている。
私には推しがいる。推しは俳優で、その傍ら、SNSで動画を投稿したり、定期的にライブ配信を行ったりしている。
私が彼を知ったのは、彼が投稿していた動画を偶然見かけたのがきっかけだった。演技力はさることながら動画のスタイルも斬新で、私は自然と興味を持つようになった。次第にライブ配信にも入り浸るようになり、気づけば彼のファンになっていた。
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そんな多才な彼は、人柄もいい。本人曰く「人が好き」らしく、周りの人を大事にしている様子が日頃の発言からひしひしと伝わってくる。
彼はファンとの距離が近く、SNSのダイレクトメッセージや配信のコメントでやり取りすることができる。才能もあって人としてもできている彼だから、私が心惹かれたのは当然のことだったのかもしれない。
彼を推してかれこれ一年が経った。彼は私の人生を大きく変えてくれた人だ。
彼を知るまでの私は自己肯定感が低く、やりたいこともなく、ただ流されるように日々を過ごしていた。もうすぐ学生と呼ばれる生活が終わろうとしているのに、ずっと変わることができない私は、「このままなんとなく死ぬ時のために生きる人生になるんだろう」とどこかで諦めていた。
そんな日常は、たった一つの出会いで変わった。
自分が嫌いでたまらない私に、彼はたくさん言葉をかけてくれた。それで少しずつ自信を持てるようになっていった。それに、彼が出演した作品を見たのがきっかけで、夢も見つかった。これまでの自分が嘘だったかのように、今の自分に、未来に胸をときめかせている自分がいた。
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その裏側で、彼を推す生活の中で漠然と不安に思うことがある。それは、推しに対する気持ちが冷めてしまうかもしれないということだった。
自分を目標に向かって突き動かす力。今日を、明日を生きようとする気持ち。これらが自発的に起こっているものなのか、それとも推しへの気持ちと結びついて起こっているものなのか。正直私にもわからない。
今、特に推しに対する気持ちが消えそうな予兆はない。胸の内で青い炎が燃えているような何かを確かに感じている。しかし、これが何かの拍子に消えてしまったら……。好きになり始めた自分も、将来の夢も、全て忘れてしまうのではないかと思うと恐怖に近いものを感じる。
現在22歳、人生史上最高の自分は今だと思う。そんな自分も、彼が好きだと思う気持ちだけで成り立っているのかもしれないと思うと、それがどれだけ強いものであれ、一本刀の脆いものだと思ってしまう。
SNSでたまたま動画を見た。それだけでこんなに好きになったのだから、逆が起こる可能性も十分にあるはずだと私は思う。突然何かが私の焔を消し去ってしまうのではないかと。
「このまま目を閉じたら、明日には推しのことを忘れてしまうのではないか」
そう思うと眠れない夜がある。翌朝、目が覚めていつも通り彼を思い出すとホッとする。
これを聞くと大げさだと思う人がいるかもしれないが、私は本気でそう思っている。それだけ、彼のおかげで手に入った人生が私にとっては大切だということだ。
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そんな不安がある中で、どんな結末を迎えるとしても絶対に忘れてはいけないことがあると思っている。それは、これまでの自分の人生をまるっきり変えてしまうような人がいた、という事実だ。
遅かれ早かれ、私はいつか彼への気持ちを忘れてしまうのだろう。ただ、私がこの先どんな人生を歩むとしても、彼に変えてもらった人生があったことは絶対に変わらない。そんな人に巡り合えることは、この先長い人生を歩むとしてもそうそうないだろうというのは、こんな若造の私でもわかる。
だから私は絶対に、一生、あの人のことを忘れたくないと心から思っている。ただ願わくば、できるだけ長くこの幸せを感じていられますように。