振った理由。その言葉を聞くと、今でも吹き出してしまうほどに面白くも悲しい、初々しかった日々の出来事を1番に思い出してしまう。
私の人生で初めてできた彼氏の話。

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それは、私が中学生の時だった。
委員会の委員長をしていた私は毎月、生徒会の集会に参加をしていた。
集会では私と同じように委員会で委員長をする人たちが集まり、生徒会長を中心に今月の反省や来月の目標を話し合っていた。

私は、この毎月の集会に参加をする事がとても楽しみだった。理由は、好きな男子生徒がいたからだった。彼は勉強も運動も得意で性格も優しかった。月に1度、そんな彼と接点が持てるというだけの理由が唯一、私の学校生活へのモチベーションを上げていた。

だが、私はある日、彼ではない男子生徒から告白をされた。
それは集会にも参加をし、私が片思いをしていた彼とも仲の良い男子生徒だった。
メールで「話したいことがある」と連絡があり、休みの日に会う事になった。
約束場所であった私の家の近くの公園のベンチに座る彼が見えた瞬間、彼の醸し出す雰囲気が痛いほどに理解できて、辿り着く前から家に帰りたくなってしまった。
これから何を言おうとしているのか、それは何も聞かなくとも体から文字が出ているかの如く伝わった。そして彼は、口を開く。

「好きなんだ。付き合ってほしい。別に俺のことが今は好きじゃなくてもいい。ゆっくり知ってくれたらいい」

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世間でよく聞く告白というものが、受けた時にこんなにも罪悪感で一杯になるものだったなんて私は知らなかった。心臓が痛かった。
何で好きなの?何が好きなの?いつから好きなの?もっと他に良い子いるよ?
言いたくて言えない言葉たちは、私の気持ちをどんどん黒く染めていく。断る勇気のない私は、ただ黙って頷いた。

嫌いじゃない。けど、好きでもない。
そんな私の気持ちを知っているかのように、彼は「今は好きじゃなくてもいい」とまで言ってくれた。でもそれは、そんなことは、本当にしても良いことなんだろうか。
当時、中学生であった私にとって、この問題はとても難しく感じた。

彼はその先の可能性を信じている。
私の罪悪感はその先の不可能を意味している。

告白をされた日から、私の中に罪悪感が止まることは無かった。
私は嘘つきなのだろうか。詐欺師みたいだ。彼を裏切っている。
そんな毎日は気持ちを暗くさせていく。
毎日何度も頭でリピートされる彼の告白シーン。再生をする度に気持ちは重くなるのに止めることはできなかった。

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そして、その時の映像を何度もリピートしてしまう理由は、あの日、彼の半袖の間から見えた脇から生える毛にあるのだと、気付きはじめてもいた。
彼とは小学校も同じだった。真面目で、口数が少なくて、ニコニコしていて。
整っている顔は女の子みたいに可愛かった。それなのに、あの日に脇から覗かせたソレは、私が彼に持つイメージとはかけ離れて見えて、ショックな気持ちにさせた。
彼はもう、私の記憶の中で止まっているような小学生の彼ではない。

彼が特別に剛毛であった訳でもなければ、必要以上に半袖から見えていた訳でもない。ただ、私が知っていたはずの彼は私が知る以上に男の人になっていた、というだけの話なのだ。それだけなのだ。

でも私はその当時、自身の脇からも毛が生えておらず、生理も来ていなかった。
女性の体というものすら自身で分からないのに、異性の成長過程にある体を間近で見ることは中学生の私にとって、刺激が強過ぎたのかもしれない。そして、彼の方が肉体的にも精神的にも先に大人になっていたのかもしれない。

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結局私は、彼を好きになれない罪悪感と彼の脇から生えていた毛のショックを消し去る事が出来ず、数ヶ月でお別れを言うことになるのだが、今になって考えてみると、切なくも愛しい話だな、と笑ってしまうのである。
この時期の年齢にありがちな「鼻毛が出ていて100年の恋が覚めた」とか「私服がダサかったから嫌いになった」といった種類の仲間で、「脇毛が気持ち悪かった」ということなのだろうが、当時の私は真剣であった、という点が更に笑いを誘ってしまう。
若さとは、なんと愚かで残酷なんだろうか。

あれから長い時間が経過した今では、不思議なことに自身の性癖なのだろう、と思えるほどに脇フェチになってしまった、というのが私の現在である。
もしかしたらそれは、あの日、本当は触れたかったんじゃないか?あの日のショックが逆に違う形で現れたんじゃないか?と推理するが真実は自身でも分からない。

ただ、現在の私は物凄く、男性の脇に色気を感じる人間である、ということだけは間違いのないことだ。タイムスリップできるなら、あの日の自分に伝えたい。