2021年3月31日。午前9時。
店長を務めていたコンビニが、閉店した。
アルバイト時代から数えると、トータルで4年。
日数にすると1500日。
ここで仕事をすることが生活の一部なんかをはるかに超えて、自分にとっては家族みたいなものにいつの間にか変わっていたことに、自分自身が1番ハッとした。

時計の針が9時になったのを確認して、お店に手伝いに来ていた社員さん達の手が、一斉に動き出した。
大体の流れは打ち合わせをしていたから、手順は把握していたけど。
「無くさないで。私の大好きな居場所を壊さないで」
なんて言える立場でもなければ、手を止められるような暇もなくて。
私のお店にあった商品は、歩いて2、3分のところにある3号店に移動させた。

◎          ◎

「もう2度と、同じ景色は見られないんだな」
なんて言葉を飲み込みながら、閉店作業を進めた。
半分泣きそうになってたのは、周りの人は気づいていたのかは、
今でもずっと分からないまま。

ずっと忘れたくないことも、ずっと変わらないこともあって。
これは離れてみて、たくさんの時間を過ごしたからこそ言えることかもしれないけど、
閉店させてしまったことが悔しいとか、コロナ禍で店長研修にいけないまま3年間培った知識と経験だけでお店に立ってたとか、
そんな実際に自分が目の当たりにした、1番現実的なことは自分の中ではどうでもよくて。
1番悔しいと思っていることが、
「お客さんの笑顔が見られる場所を、自分の手で無くしてしまったこと」
死ぬことより、自分が大好きな居場所を自らの手で壊すことの方が、
この世の中で1番怖いことなんだと知った瞬間でもあったことは確か。
たかが22。されど22。
たぶん、高校の同期の誰も体験したことのないことを、
自分はこのたった1つしかない世界で体感した。

◎          ◎

私のお店がなくなったあと、少し経ってから違うお店ができていた。
「誰も覚えてなくてもいいけど、私だけはあの大好きだった場所も、お客さんの笑顔もずっと忘れたくないな。ううん。簡単に失わせない。なくしたりしちゃダメだよな」

18で描いた夢が、少しずつ形を覚え始めていて。
目の前に見える景色は、変わらないでって願っても、その声は虚しく変わってしまうけど、その姿形がただの空白を、埋めるだけのものにならないようにしていたい。

ありがとうもごめんねも、大好きも。
自分の中だけで終わらせることなく、自分という枠を超えていつまでも、どこまでも更新していられるように。
自分にとって大好きなものを、大事なものを、これからずっと先でも無くさないように、自らの手で握り潰してしまわないように。
自分だけが分かればそれでいい。
この小さな手で守り続けていたい。

◎          ◎

もう2度と同じものを抱きしめられないけど、
教えてくれたことも、教わったこともたくさんあって。
自分じゃない別人が見たら、ただの通過点だったのかもしれないけど、
そんな容易なもので、終わらせないために。
将来の夢に、自分自身が1番怯えてしまった時に、ただの通過点を何個目か分からない、
自分にとって、いつでも帰れる人生の原点にしていたい。
通過点ってただの点にすぎないかもしれないけど、小さな点の連続が線になって、
自分の人生だったなって、自分が1番笑えたらそれでいい。

忘れたくないものもあるけど、ずっと失くしていたものも、
変わらないものもちゃんとあって。
そういえば、ずっと言えなかったことがある。
今更だって笑うかもしれないけど、
今言いたいから言うね。
出会ってくれてありがと。
ずっと大好きでいてもいいかな。
ずっと忘れないから、ずっと忘れたくなんかないから、
ずっと大好きでいさせてください。
不確かな存在を抱きしめ続けるなんて、ただの不器用なのかもしれない。
でも、それでもいい思う。
2度と出会うことのない、きっとずっと憧れ続けるこの空を
この小さな胸に抱きしめ続けるために。