2020年4月、新型コロナウイルスの蔓延により、第1回目の緊急事態宣言が発令された。
誰にとっても、日常が大きく変わる出来事だったと思う。突然の外出自粛に、在宅勤務。何より私にとって一番ショックだったのは、ライブができなくなってしまったことだった。
当時の私は会社員として働きつつ、休日はドラマーとして音楽活動に勤しんでいた。しかし、コロナの流行とともにライブハウスや音楽スタジオが営業を停止し、活動停止を余儀なくされたのだ。
大好きなライブができない。ライブハウスに行けない。
仕方のないことだとわかっていても、仕事も家事も手につかなくなるほどのショックを受けた。
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その頃、感染者が大量に出たことがきっかけで、ライブハウスがコロナのクラスター源として大々的に報道されていた。私の大好きなライブハウスが、世間から少しずつ冷たい目を向けられるのを感じた。
ライブの中止が続けば、当然ライブハウスの経営状況は赤字になってしまう。いつの間にか、お世話になったライブハウスはつぎつぎと閉店に追い込まれていった。しまいには、営業を続けるライブハウスを私的に取り締まる「自粛警察」が登場した。私が普段からお世話になっていたライブハウスも、餌食になってしまった。
私は悲しかった。
世の中のバンドマンやライブハウスの経営者は、コロナ禍の中、好き勝手遊んでいるわけではない。収入を得て、生きるために、ただ「音楽」という仕事を真っ当にこなしているのだ。コロナのせいで生活のための仕事はできないし、世間からは容赦なく叩かれるなんて、あまりにも理不尽ではないか。
自粛警察による心ない張り紙を、テレビ越しに睨みつけた。
「確かにコロナは恐ろしいけれど、人間の方がよほど怖いじゃない」
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2020年8月。コロナ終焉には程遠い状況の中、私は数ヶ月ぶりにライブに出演した。
大好きなバンド活動ができることに幸せを感じたのはもちろん、ライブハウス内の徹底した感染症対策に感動したのだ。
アルコール消毒や検温が徹底され、ソーシャルディスタンスを確保するため、客席には等間隔で養生テープが貼られていた。ライブは2部制に分けられ、1部が終わると室内の消毒が行われた。ライブに行きたいけれど、コロナが不安という方向けに、オンライン配信用のカメラもセッティングされていたのだ。
ライブハウスのスタッフさんも、バンドメンバーの皆も。メディアに、世間に、自粛警察に非難されても、みんなこうして必死に自分たちの大事な場所を守っているのだと気づいた。
確かに人が集まるという点で、クラスターは生まれやすいのかもしれない。でも彼らがこんなに努力しているんだってこと、ニュースでももっとフォーカスしてほしかったな。
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ちなみに「自粛警察」は、2011年の東日本大震災後の自粛ムードで生まれた造語らしい。今回のコロナ禍がなくとも、きっかけさえあればきっと広まっていたのだろう。標的がライブハウスでなかったら、私も自粛警察側になっていたかもしれない。
今回のコロナ禍で思い知ったのは人間の怖さだった。人それぞれに違った考えがあるけれど、今回のように営業・活動を続けるライブハウスやバンドマンを叩くのは違う。
自分なりの正義を持つことは大切だけれど、それを振りかざして周りを攻撃することだけは避けたい。自戒を込めて。