シンデレラは幸せ者だ。
靴だけを頼りに自分を探してくれる人がいる。
だけど、幸せになるまでの間には哀しい人生を送っていた。あの物語が人気なのは、ただのステキな話ではなく壮絶なストーリーがあるからだと思う。
王子様と結ばれるために悲惨な思いをするくらいなら普通の幸せで十分だから、シンデレラになりたいなんてわたしは思わない、絶対に。
◎ ◎
高校の時、1年半付き合った恋人が元カノを好きだと言って別れを告げてきた。
いや、正確には告げられなかった。気付いたらわたしは彼にとって、別れようの一言さえ言わなくていい相手に降格してしまっていた。
今でも思う。わたしは悪くない。
わたしと彼は同じ中高一貫校に通っていた。
中1の頃、彼から告白してきたけど、小学生上がりのわたしには恋愛なんてよくわからなくて、適当に受け流しちゃった。
彼は結構モテるタイプで、しょっちゅう女の子が寄ってきてた。中3の頃、初めての彼女が出来た時に嬉しそうにしていたあの顔は今でもたまに思い出す。まぁその子とはすぐに別れちゃってたけど。
月日が流れて高1になったある日、彼から2度目の告白をされた。まだ彼を恋愛として見るのは難しかったけれど、ちょうどその頃友達の好きな人がわたしを好きだって噂が流れ始めていて、この人と付き合えってしまえば友達との関係も悪くならずに済むかもしれないって期待を抱いて、彼と付き合うことにしたんだ。
本当に不思議だったんだけど、わたし、いつのまにか彼を大好きになってた。毎日彼のことを考えて、まるで初恋みたいだった。
初めては全て彼だった。
◎ ◎
すごく上手くいっていたのに、周りからも羨ましがられるくらいだったのに、だんだん崩れていった。
心当たりはあった。
彼と彼の初めての彼女は高2で久々に同じクラスになった。彼のクラスが文化祭でシンデレラの劇をやるんだって知った時、嫌な予感がしたんだ、本当に。だいたいの嫌な予感は的中するものだけど、これだけは当たってほしくなかった。
王子様が彼で、プリンセスがあの女だった。
どうして彼は拒否しなかったの?どうして周りも止めてくれなかったの?どうしてあの女もやめようよって言わなかったの?
思うことはたくさんあったのに、悔しくて苦しくてさみしかったのに、わたしは彼に一言も詰め寄れなかった。なにも言わないことが、なにも気にしていないように振る舞うことが、強さだと思った。
それから数ヶ月間、お互いのクラスのことに忙しくなって、一緒に帰ったり休みの日に会ったりすることも減っていった。連絡も全然返ってこなくなって、そろそろちゃんと話さないといけないと思いつつも怖くてたまらなかった。
あの女をもう一度好きになったならそう言えばいいのに。ハッキリ言われることよりもなにも言われない方が傷つくんだってこと、あいつは全く分かっていない。
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あした一緒に帰ろう。やっと言えた。
どんな顔をしているか見たくなくて、見られたくなくて、街灯が少ない道でわたしたちの終わりについて話したんだ。
あいつはただ一言、オレハヤッパリカノジョガスキダって言ってた。
だから別れようとかキミをもう好きじゃないとかハッキリ言ってくれなくて、わたしが許せば2人と同時に付き合うつもりだったのかと思うくらい曖昧だった。
急に冷めた。醒めた。覚めた。
彼にとってわたしが「傷つけてもいい相手」になってしまっていたことに気が付いたから。
その後のわたしたちは卒業までずっと険悪だったし、5年経った今だって連絡先もSNSのアカウントも知らない。
彼がずっと好きだった女はわたしだったはずなのに、いつのまにか他の女に抜かされてた。
わたしはなにも悪くなかったと信じたい。
ずっとずっとそう信じていたい。
わたしはシンデレラにはなれなかった。
でも今、わたしを1番に愛してくれる人がいる。あんたと違ってね。
拓海、あんたはいま幸せにやってる?
もしもう一度どこかで会ったら、わたしとあんた、どっちがフラれたのかフったのか決着をつけよう。
いや、やっぱりもう見かけても知らないふりをしよう。