「いつかオランダに行きたいね!」
今から7年ほど前、高校生のときに友達から来たラインだ。いや、「友達」ということにしていたが、正確にはあのとき「彼女」だった。

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私は高校2年生から卒業時まで、同級生の女子と付き合っていた時期がある。人生で初めて「付き合った」人で、私からラインで告白をして交際を始め、学校を出て外で2人でいるときは恋人つなぎをしていたし、クリスマスにはネックレスを贈りあった。同性という点さえ除けば、どこにでもいる、普通の高校生カップルだった。
当時の私は、同性愛とかそんな概念を意識したことはない。何なら「付き合う」という概念さえ曖昧なくらい。

中学から女子校で、男子なんて小6から見ていなかったという極端な思春期を過ごしていた中、高1でクラスが一緒になった彼女は、物静かで、スポーツが得意で、私服の学校でいつもズボンをはいており、どこかミステリアスな、男の子っぽい人だった。複数人で話をすることもあまりないようで、他の女子とは雰囲気が違う彼女に、いつの間にか惹かれ、気持ちが止められなくなった。

小学校の時からクラスの男子が好きで、割と恋愛体質だった私にとって、あのときの彼女への気持ちは、いわゆる、女子が隣のクラスのかっこいい男子を好きになるような気持ちと全く一緒である。
関係性が環境に多少左右される友達とは違って、1対1の関係でお互いにつなぎとめ合える「カップル」という関係性を人生で初めて経験し、私は舞い上がっていたし、ずっと一緒にいたいと心の底から思っていた。そして、精神的に依存していた。

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一方、これは「同性愛」にあたるのだなんて意識していなかったとはいえ、普通の恋愛と違うところはあった。高校で友達がいなくなったのだ。

パートナーも同性、友達も同性だと、「浮気」の定義は非常に難しい。お互いを不安にさせないように自然と友達よりも2人で話すようになり、2人で常に一緒にいる姿は周りの同級生から見て当然近寄りがたく、そのうち私たちは孤立した。
2人だけの世界がつくりあげられていく中、「オランダは同性婚ができる」というテレビ番組を見て彼女が私に送ってきたのが冒頭のラインだ。
まだ、結婚がなんなのかも考えたことのなかった頃。ただただ、好きな人とずっと一緒にいたいと思っていた若い頃。

結局、高校の卒業式が終わったころから彼女と連絡が途絶え、「別れる」という言葉もなく、別れた。彼女の連絡を待ち続けていた私は、大学入学時の4月初め、これが「自然消滅」なのだと次第に気づき、人生で初めての「別れ」に、ずっと泣いていた。
もう彼女が何をして、どう生きているのかもわからない。女子と付き合っていることは家族にも言っていなかったから、誰かと思い出話をする機会もなく、今となっては自分のことではないように感じるほど遠い記憶になった。それでも、中高時代の友達が私にいないのは、あの学校で私が確かに女子と付き合っていた故の結末だと思う。

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そんな過去があっても、私は自分をバイセクシュアルだとは思っていない。共学の大学に入ってすぐに彼氏もできたし、25歳の今となっては婚約者もいる。この先自分が同性愛をするとは不思議と思えない。
それでも、きっと一生、同性愛や同性婚、パートナーシップ制度を否定する気持ちにはならないだろう。人が恋に落ちるのは一瞬だし、ふとしたきっかけからだし、そして好きになってから相手の人柄を理解したり、依存してしまったりすることに、性別は関係ないと、私は知っている。

もうあのときの彼女とは縁が切れてしまったし、青春時代に失ったものも多いけれど、こんな経験をしたことで、様々な価値観を理解できる女性に一歩ずつ近づいてきたのかもしれないと思うと、あの恋愛の記憶は、きっと忘れてはいけない。