「自分らしい考え方」とは、これまで出会った人たち、出会った言葉たちを、混ぜて煮詰めて凝縮して、少しずつ完成していくものだ、と思う。
いまの私を形作っている、周りの人たちから受け取ったすてきな言葉たち――ときに映画作品やアイドルであったりもする――は数えきれない。なかでも、『忘れたくないこと』というエッセイのお題を見たときに、1つ思い浮かんだ言葉があった。
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フィンランドに留学していたときのこと。1年弱の留学期間を終えようとしていた私は、幼児教育の授業プログラムの一環で、現地の幼稚園でインターンをしていた。
そこでは1日2回のkahvitauko(コーヒー休憩)があり、コーヒーを片手に先生やインターン生が一緒に話をすることもあった。
もうすぐインターンと留学生活を終えようとしている私は、ある先生から帰国に対しての気持ちを聞かれ、つい感情が口をついて出た。「私はフィンランドにずっといたい、日本に帰りたくない!」
はじめての長期にわたる海外生活は、不便なこともつらいことも多かったが、一冬をフィンランドで過ごし、この美しい国での生活を、私はすっかり好きになっていた。
「好き」という言葉がしっくりこないほど、当時の自分にとってはそれが日常になっていて、永遠に続くように思われた。加えて、帰国した後に待ち受けている、日本での就職活動を思うと憂鬱な気持ちもあった。
そんな私に、先生はこう言葉をかけてくれた。
「あなたにとって、フィンランドでの生活はもう日常なのね。でも人生でできる一番面白いことは、『コンフォートゾーン(快適な空間)を飛び出す』ことよ」
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勇気を出して始めたフィンランド生活は、いつのまにか私にとって日常になっていた。新しい場所での生活に順応するため、そして留学生活をできるだけ充実したものにするため、日々少しずつ努力を重ねた、自分のことをちょっとだけ誇りに思った。そして、日本への帰国は冒険の終わりではない、また新しい冒険の始まりなのだ、とも気づかされた。
新しいことを始めると、居心地の悪さを感じることも多い。そもそも「新しい場所に行こう」「新しいことを始めよう」と思うこと自体が、精一杯毎日を送るなかでは、なかなかに億劫なことである。人見知りで、面倒くさがりな気質の私にとってはなおさらだ。
そんなとき、先生からもらった言葉を思い出す。留学を終えて早くも6年が経ったが、この言葉はときに私をはげまし、ときにお尻を叩いてきた。
なんだかつらいな、居心地が悪いなと思うときは、「いつもの自分」から一歩外に踏み出している、成長や変化の時なのかもしれない。反対に、心穏やかな日々が続いているときは、少しだけ危機感がわく。私は最近、何か殻を破るような挑戦をしたかしら?と。
「コンフォートゾーンを飛び出すこと」は、大きな変化である必要はない。小さな変化の重なりが、自分を別の場所へ連れていく。
「人生でできる一番面白いことは、『コンフォートゾーンを飛び出す』こと」
この言葉を忘れずに、これからも自分の人生を面白くしていきたい。