「ーーちゃんって、アトピー?」
雨の降る夜、初めて素肌を見せてもいいと思った相手に言われた。

見られた、知られた、気づかれた。
頭の中を駆け巡る。
掻きすぎる前に薬を塗っていれば。体じゅうの隅から隅まで保湿剤を塗っていれば。痒くならないようにシャワーの時間は短くして、布団は毎日新しいものに取り替えていれば。気にしてないフリをしながら、後悔が止まらない。やっぱり肌は隠すものなんだ。

◎          ◎

"乾燥肌"とかいう、ポケモンの特性みたいな性質を持っていた幼い私。いつもどこか痒くて、でもそれが当たり前だった。いつの間にか特性は"アトピー性皮膚炎"に進化していた。
塗り薬や飲み薬、漢方やテープ状の貼る薬。色々な方法で治しては掻き、治しては掻きを繰り返した。いつも同じところに症状が出るから、うっすらと色素沈着もしていた。幸い症状はどちらかと言えば軽い方で、食生活や行動に制限は一切なかった。

アトピー患者には汗が大敵だ。中学に入り部活動が始まると、毎日のように汗だくになった。何かに集中していれば良いのだが、我にかえると痒い!
練習が1日ある日は、昼休憩の時に走って帰宅しシャワーを浴び、また大急ぎで練習に戻ることもしばしばあった。
高校生にもなると自分の症状がある程度わかり、自分なりに予防策をとっていた。例えば治りかけていてさらに掻きむしりそうな箇所には絆創膏を貼ったり、汗をかいたら着替えられるようにキャミソールを1枚多く持ち歩いたりしていた。
大学生で仲良くなった子も似たような症状があった。2人で"あるある"を語って笑い合ったこともあった。それほど深刻な悩みでもなかった。強いて言えば1年じゅう蚊に刺されているくらいの程度。
肌につけるものはもちろん気をつけた。刺激を感じるものは二度と使用しない、肌の調子によってはアイシャドウを控える、など自分でルールを決めていた。大切な予定の前日はメイクをせず、少しでも赤みがあれば薬を塗った。流行りのパックやバズったスキンケアは肌を守るために使わなかった。

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おしゃれが好きな私は、タトゥーシールに手を出した。手首や手の甲に着けて楽しんでいるうちに、アトピーが出ている所の隣や、跡になっているところにシールを貼るとかわいいかも、と思うようになった。

赤チューリップのシールは傷になるまで掻いてしまった所に。ほくろのように跡になっている所には星空のシールを。
自分で自分を愛しているなんておしゃれだ、なんて気に入っていた。誰に見せるわけでもない、自分だけのおしゃれ。タトゥーシールが特別なものに思えた。症状に直接の効果はないけれど、目で見る華やかな薬みたい。
あの時、彼が私に刺した言葉。悪意もなければ愛もなかった言葉。
ただ見た感想を口にしただけの、他人の言葉の羅列でしかないけれど。怒りとも悲しみとも違う気持ちはまだ癒えていないけれど。もうあなたに見せることはないけれど。
天気や季節みたいに毎日変わるこの肌を愛おしく思ってみよう。隠し方も魅せ方も、私の思いのままに。