自分のほっぺたが柔らかくて、大好きで、ずっと触っていた。友達にも、彼氏にもたくさん触られた。思春期にも姉と一緒にスキンケアを徹底的にしていたから、難なく10代の黄金期を美肌で乗り越えることができた。

でも、私は特徴のない顔だった。週に1度は友達から私のドッペルゲンガーの目撃証言が入る。
「私、自分の顔、嫌いなんだよね」
こんなことを言うと、盛り上がっていた場が突然白けるのを何度も体感した。小さな目、高いとも低いともない鼻、これまたすぐに描けそうな口たちはフリー素材のイラストのパーツにそっくりだ。
「もっとありがたみを感じなよ」とか、男友達に至っては「俺だったら、遊びまくってるぜ」と冗談とまで受け取られることさえある。

確かに、特徴がないからこそ、誰かの面影を想ってか異性から声を掛けられる数は少なくない。ただ、それも特に強く私に惹かれているわけではないので、内面が好みと違うと分かると、すぐに私の前から立ち去ってしまう。

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肌の状態を確認するためには、鏡をみなければならない。なるべく近くに寄って、自分の嫌いな顔が俯瞰できないようにする。肌だけを確認する。
その肌だけを確認する作業も、20代半ばには億劫になってしまった。PMSの症状が、職場のストレスとともに悪化してしまったのだ。
生理前にできた吹き出物は、次の生理が始まってからも改善せず、その吹き出物を見る度に、私はちっぽけな肌への自信はなくなっていき、0と化してしまった。

洗面台で歯磨きをやめた。玄関の姿鏡は顔が見えないように、ごみの収集日の案内の紙を上部に貼った。何度も美容整形や皮膚科を受診するか迷い、検索しては、ホーム画面に戻った。

ある日、不正出血があった。家族や知人、信頼できる看護師仲間に相談しまくった結果、答えはみんな同じだった。
「病院に行きな。取り返しのつかなくなる前に」

10人目に言われた後、やっと、頭では分かっている行動を取れた。診断された答えは子宮頸部のポリープ。良性だった。
安堵した顔を見た医者は私にPMSの治療を勧めてくれた。

低用量ピルを内服するようになって、PMSの症状は全く嘘のように減少した。生理前に人と食事をするのも平気になったし、20時に寝なくても朝起きられるようになった。なにより、肌荒れが嘘のようになくなり、生活に光を差し込んでくれた。
私はまた肌の状態を確認するために鏡を見られるようになった。

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30代を迎えるにあたり、悩みはどんどん増えていく。
ほくろの数が増えた、体脂肪率が増えた。この特徴の無い顔は相変わらず直視できない。

でも、生きていける。偶然肌荒れを解決することができたことは、私にとって好機であったが、結局自分から動くことはできなかっただろう。あるいは、全身に吹き出物が出始めたら、諦めて皮膚科を受診したのかもしれない。

いずれにしても、どうしても現状を変えなければならないときは、変えられる。
今は変えなくても大丈夫。シミの数を数えながら、痩身エステを検索しながら、次来るそのときまで、この身体で過ごすことにしよう。