最近、対面授業に行くと、周りがざわざわしている。
耳を澄ませてみると、「就活」「インターン」「ガクチカ」の話。
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来年の就職活動に向けて動いている同級生を見ていると、梅雨と夏の間の気持ち悪い空気も相まって、頭が痛くなる。
「いやいや、私もやることあるんだから」と気を引き締め、スーツケースとバックパックに黙々と荷物を詰める。
この夏、1年間温めてきたことが実現する。
2回目のアメリカ交換留学だ。
昨夏は、自粛要請から実家にも帰ることができず鬱々としていた私だったが、アメリカ人の元彼が日本留学に来る知らせを受けたことをきっかけに英語の勉強を始めた。
日本で会ったときにびっくりさせることが目的、ただそれだけだった。
英語の勉強をしながら、ふと4年前のことを思い出した。
私は16歳の頃、アメリカに1年間交換留学をした経験がある。
思春期を拗らせ、日本から出たくなった私は大した準備もせずに飛び立った。
その結果、
“What’s up?(調子どう?)” と聞かれて、挨拶だとは知らず正直に上を向いたら苦笑され、
私が自信なく話す英語が伝わらなさすぎて翻訳アプリを出され、部活の仲間に「何言ってんのか分かんないんだけど」とその日から仲間はずれにされ、自分の情けなさにスクールバスで大号泣、そんなエピソードが次々と思い出された。
「あれ?これでいいのか、私?」
英語が伝わらなくて悔しいとか、もっと英語を話せていたらとか、思っていた自分を思い出した瞬間でもあった。
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そうだ、もう一度アメリカに行こう。大学の交換留学プログラムに応募しよう。
自分がもっと英語のボキャブラリーを知っていれば、拙い英語でも話して伝えようとする姿勢を見せていれば、避けられたかもしれなかったことじゃないか?
私の努力不足で起こったことだ、そう考察した。
そう決まったら、大学の交換留学プログラムに応募するべく勉強をするのみ。
日本留学に来る元彼に会ったときにびっくりさせたいという目的ではなく、自分の目標を叶えるべくエンジンをかけた瞬間だった。
2ヶ月間の猛勉強の末、第一希望だったアメリカのある大学の交換留学生として合格が決まった。目標に向けて駒をひとつ進めることができた。
以前お世話になっていたホストファミリーに連絡すると、とても喜んでくれた。州は違っても、その国に家族と友達がいることに安心感がある。
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入学と同時にパンデミックになり、自宅で黙々と勉強することしかしなかった大学の思い出を一変させるために掴み取ったチャンス。強くなりたいわけでも、自分を変えるためでも、楽しい思い出作りのためでもない。決して要領がいいタイプでも、勉強が得意でもない。でも、がむしゃらに頑張ったり、あえて自分を試すような場所に身を置いて努力したりすることは嫌いじゃない。
過去の自分を面白はずかし話で終わらせるのが悔しいから、またアメリカに行く。
大学で日本語を学んでいるアメリカ人の元彼は、2回の延期を経て日本に留学に来る。
同じタイミングで、私はアメリカに交換留学をする。
付き合っていた時「大学生になったら、お互いの国に留学したらいいよね」と話していたことが、実現するようだ。
随分昔に別れたとはいえ、私のやる気を出させてくれた彼には感謝したい。
いつか会う時にはびっくりさせられるかな、なんてね。
そういえば、元彼に言っていなかった。
「久しぶり。この夏から、1年間アメリカに交換留学するよ」
トーク画面を開いて、あえて日本語でそう打ち込み、送信ボタンを押した。