世界各地での戦争のニュースが流れる中、お世話になっている整体師の奥さんが私にこう言った。
「あなたは知恵で武装しなさい」

世界ではたくさんの人が武装している。
武装という言葉を聞いて、思い浮かべるのは、戦争。しかしそれ以外にも、たくさんの武装が自分たちの周りでは起こっていると思う。
ある人は、真っ黒の服を着て、気合いを入れるために武装をする。別の人は赤色かもしれない。
ある人は、心に武装をしている。誰にも知られたくない本心を隠すために、その気持ちを大切にするために。

「いくら知識があっても、使えなければ意味がないわよ」と言われた時の私は、頭でっかちな言葉を、自分が知っている情報を、ただつらつらと並べるだけの人に見えていたのかもしれない。
知識で武装をしていた私の姿は、何かに叩かれたらすぐに足から崩れ落ちてしまうだろう。
私は、武装兵にはなりたくないが、何かの一発目を耐えることのできる人になりたいと思う。

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使えない知識とは、どんなものなんだろうか。
例えばオノの使い方を動画で学んだことはあるけれど、実際使用したことがない場合。よほどのセンスがなければ、一発で薪割りをすることはできない。薪を割ることができたとしても、力任せに振り下ろしてしまって、肩を壊してしまうかもしれない。

体験して初めて知恵になる。肩を痛めない薪割りのやり方はあるんだろうかと模索することで、知恵になっていくのではないだろうか。どれだけ高いオノを持っていたとしても、上手く使うことができなければ、それは宝の持ち腐れと呼ばれてしまうのか。

知識を持っている人はたくさんいる。けれど、使える知識を持っている人は、一体どのくらいいるのだろう。騙されてはいけない。上辺だけの知識を表す言葉に引っ張られてもいけない。

知識を使う先が、誰かにとっては良いことになるかもしれないけれど、他の誰かにとっては悪になることもある。知識の使い道が違えば、知恵は悪にも良にもなると感じた。

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世界には、たくさんの言葉があふれている。化粧品を売る言葉や、コーヒー豆の紹介文、好きな人に告げるための言葉。それは、ネットの世界も、現実の世界も関係ない。
今にもあふれそうな言葉がある中で、私たちは想いがこもった言葉を選ぶ必要がある。想いが詰まった言葉とは、想いのある人が出す言葉だ。想いのある人は、知識を自分のものだけにしない。どうにかして役立つよう変換させ、自分の知恵につなげる。

言葉を紡ぐ人たちが伝えたい言葉の先には、どんな世界が広がっているのだろうか。
使って初めて知恵になるのであれば、誰かの世界観は、その人の知恵でできているのかもしれない。

私は座学がとても苦手なタイプだ。学校の授業の時には、黒板を見ながら座っていることは苦痛だった。さらにはノートに写すことなんて大の苦手だ。けれど一発で覚えることは、とてもできなかったから、テストの時には何度も何度もノートに書いて覚えていた。

できるだけ、ノートに向かいたくないと思っていた私。

そんな私が今、椅子に座って、机に向かって、真っ白のノートに向かって勉強をしている。
それは、もっと沢山の人に言葉を伝えるためにできること。

「あなたは知恵で武装しなさい」
この言葉は、勉強嫌いの私の背中を厳しく、力強く押している気がした。