結局、ふったんだか、ふられたんだか、分からない別れをしたことがある。
私は大学4年生の就職活動真っ只中の春に、6歳年上の社会人の彼とお付き合いを始めた。
就職活動のことで相談をするうちに彼のことを好きになっていた私は、夕焼け色の車内での彼からの告白を断る理由なんて無かった。
そもそも、少し気になっていたから就職活動の相談もしたし、向こうから告白をしてもらえるよう誘導した節もあった。計画的犯行の末、お付き合いができた彼と過ごした時間はとても幸せだった。

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しかし、内定式の数日前に彼と連絡がとれなくなった。夏の暑さがまだ残る秋のことだった。
直前までLINEでお互いのことを好きだと言い合っていたのに、LINEをブロックされていたのだ。
電話番号も知らないし、共通の知り合いもいなかった。家は知っていたけれど、家に押しかけるのは嫌われる気がして行かなかった。
ふられた理由として、ひとつ思い当たることがあった。それは喧嘩なんて無かった2人を唯一不穏な空気にさせた「結婚」の問題だった。

彼はよくこのようなことを言っていた。
「30歳までに結婚できなかったら負け組だ……。あと俺には2年しか無い」
それに対し、
「女性がそれ言ってるの聞くけど、男性は30歳超えたら今度は貫禄が出てモテるでしょ。男の人は年齢心配しなくていいんじゃないの？」
と答えていた。初めの頃はここで話が終わっていたのだが、徐々に彼は結婚をせまってくるようになった。
勿論、私も彼と結婚をしたくなかったわけではない。ただ、私は学生で、来年社会人として働く会社を決めるために奮闘している。結婚は「今」じゃない。
彼は結婚したら妻には仕事を辞め、家庭に入ってほしいと言っているのだから尚更だった。就職して1、2年経っても彼との結婚はできない。
28歳がベストだと思っていた。
「私のことが好きなら、私がしたいと思う歳まで信じて待っててよ」というのが私の言い分。
「俺のことが好きなら、すぐに結婚してくれよ」が彼の言い分だった。

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次第に彼は「大学を辞めて結婚してほしい」とか「子供ができれば結婚してくれる？」とか言い出し、私が戸惑うと怒るようになった。
今すぐ婚姻関係にならなくったって、一緒にいられるんだからいいじゃないか。
彼は、私と結婚がしたいんじゃなくて、30歳までに誰かと結婚がしたいだけじゃないか、と悲しくなった。

そして、私の内定式の数日前、彼は誕生日を迎え29歳になった。
連絡がとれなくなって1週間は、彼から連絡がくることを信じていた。
内定式のあとの内定者と人事担当者との食事会で、少し結婚の話になった。涙が溢れそうになって、必死にお吸い物に浮かんでいる松茸のかけらに意識を集中させた。

彼と連絡が取れなくなって約3ヶ月後の12月の中旬、最寄駅で彼に会った。
私の自宅の最寄駅は、彼の会社の最寄駅だった。急なことで彼を問いただせない私と少し怯えている彼は、最近の近況報告をし合った。
「私、ふられたの？私たちは別れたの？」と意を決して聞いた。
「そうじゃなくて。フィー子はこれから、社会人になって、色んなことを経験して……明るい未来がいっぱい待ってるからなあ……」と彼は呟いた。
何度聞いても、答えになっていない答えを彼は呟いた。

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明るい未来。
私はその明るい未来に彼がいると思っていた。彼がいない未来を明るいと思えない。
そんなことを泣いて言える可愛さが備わっていれば良かったのだが、そうかなぁと苦笑いをすることしかできなかった。

少しして、彼のLINEのアイコンが変わった。
レストランでサンタクロースの格好をした彼が跪き、髪の長い女性に指輪を渡している写真。
クリスマスにサプライズでプロポーズをしたようだ。馬鹿みたい。
やっぱり私はふられたようだ。
私じゃなくても30歳までに結婚さえできれば良かったのだ。
しかし、私も26歳になり、周りが結婚し始めるなかで「好きならすぐに結婚してくれ」という彼の言い分も分かるような気がする。6年も待てという彼女と別れる決断を下す気持ちも分からなくもない。私はふったから、ふられたのかもしれない。

余談だが、彼はプロポーズをした彼女と結婚前に大喧嘩をして別れ、私とヨリを戻したいそうだ。
私はそれを2年以上ふり続けている。