「この先のプランとかある?」
5つ年下23歳の"男の子"に告白され、私はそう返したのだ。なんともまぁ、おぞましい。
とっさに出てしまった言葉で、深い意味は求めていなかったものの、なかなか重たい台詞を飛ばしてしまった。
久しく恋愛などしていないものだからと、心の中で自分に言い訳をしてみたところで時すでに遅く。沈黙が流れた。

付き合う、同棲、結婚、子供…。28歳の女の恋愛には結婚や出産がリアルにつきまとうのだ。ここ数年の、私のまぁなんとも痛ましい想いの凝縮が先に溢れ出てしまった瞬間だった。

心が穏やかならば、進んだはずの恋だった

よく考えたら30歳手前で自分よりも若い男に好かれようものなら嬉しくないわけがない。むしろありがたい。相手の事を好きか嫌いかはさておいて、とにかく嬉しいものだ。
若さという武器を関係なしに自分の事を好いてくれている。そしてその若さの武器をもう間もなく取り上げられようとしているこの身にとって、なんという自信をくれたことか。

5つの歳の差は、30歳というボーダーラインを越えてしまえば、多分きっと、さほど気にはならないだろうが、そのラインの内側の者からしたらまぁまぁなモノに感じるのだ。
小学6年生の時の1年生。
高校3年生の時の中学1年生。
社会人1年目の時の18才。
意味のない5単位の換算をひたすら繰り返して気がついた。
結果として私は怖気ついたのだ。きっと納得いくプランがあろうがなかろうが、自分がただ好きならば、心が穏やかならば、勝手に進んだであろう。自分と世間に対する呪縛におびえ、年齢におびえ、それを手にする事ができなかったのだ。

その日から何日も、彼の事をずっと考えていた

話は変わるが、だいたいの女性にとって『美』は永遠のテーマだ。中でも毛穴のケアというものは、沢山の女性を悩ませている。
コンプレックスだった"そばかす"や"一重まぶた"がある日突然チャームポイントになる日が来たりする。大嫌いなシワだって、素敵な男性に「笑シワが幸せの証拠だね」なんて言ってもらえたらきっとそんなに気にしたりしなくなる。
でも、毛穴に限ってはそんな事はない。とにかく毛穴はないにこしたことはない。これは私の自論だが、毛穴の有無で肌の綺麗さがほぼ決まると思っている。キメの整った毛穴レスな肌が女の質をあげるのだ。

私はその日から何日も、彼の事をずっと考えていた。
彼と話す時はいつも、肌ばかりを見ていた。お酒をたらふく飲んだりはせず、タバコも吸わない、ランニングと読書が趣味らしい彼の肌はとっても綺麗だった。今時の男の子って本当につつましい。なんとまぁつつましいその肌に触れてみたい。そう思った事はなくも無い。
なくも無いはずだったのになぜ私は。一体、何が怖かったのか。自分よりピチピチで毛穴のない肌を合わせる事に怯えたのか。

自分に正直に、他人に素直に。30歳は怖くない

あの日、私が彼をふったはずなのに。
なぜが、私はふられたような気持ちで眠りについた。次の日も次の日も私はふられた気持ちだったのだ。

私が彼をふった理由は、ざっくりとして曖昧で特に意味も根拠も無くしょうもない理由で構成されたモノだ。
でも、私がふられた理由ははっきり分かる。
傲慢さと陳腐なプライド、言い訳じみた思考回路と屈折した妄想。そんなモノを5つも歳下の“男性”に露呈したのだ。
あの日、別れ際、彼は社交辞令のご飯の誘いをひとこと言って笑顔で去っていった。

私はもうじき、誕生日をきっと独りでむかえる。ひとつ歳を重ねて思うのだ。誰もそんなに私を見ていないよって。いや、見て欲しいと思っても見てもらえないよって。
自分に正直に、他人に素直に。30歳は怖くない。そのラインをむかえる時にはキラキラしていて欲しい。頑張れ私!ハッピーバースデー。