わたしには大好きな人がいた。
彼に振り向いてもらうのに、3年以上かかった。
本当の意味で彼が振り向いてくれたのは、わたしがふった後だった。

◎          ◎

出会いは高校1年生のとき。
当時はまだLINEじゃなくてメールをしていて、彼から返信が来ていないか、常に気が気じゃなかった。
恋をしたことがなかったわたしは、友達に「それは恋だよ」と言われても、ピンとこなかった。

とある友達に、彼の話をしたら、「会ってみたい」と言われた。
「絶対に連絡先を聞かない」という約束で会わせたところ、「彼の連絡先を聞きたい」と言われた。
彼が100%断らないことを分かっていて、連絡先を教えていいか確認し、彼女に教えてしまったことは、わたしの人生最大の後悔だ。
「じゅりちゃんの好きな人は絶対に盗らないし、2人きりで会って欲しくなかったら会わないし、電話もして欲しくなかったらしないし、メールも全部見せてって言うなら見せるよ」と彼女は言った。
メールを全部見るのは、さすがに申し訳なくて、それ以外は嫌だと伝えた。

その後、彼女は常にリップクリームを塗りたくるようになり、わたしの目の前で彼に電話をし、いつしか音信不通になった。
そして、彼からは「彼女ができた」と報告を受けた。
だが、「彼女は1つ下でしょう?誕生日は6月でしょう?」と問うても、彼は答えない。
どこからどう見ても2人は黒で、彼女にとって、わたしは友達ではなかったことに気がついた。

◎          ◎

結局2人は1ヶ月程度で別れ、彼はそのあとわたしと付き合った。
何度、「好きだよ」と伝えても「ありがとう」としか返さなかった彼に、出会って2年ほどでやっと「付き合おう」と言わせた。

彼とはその後2年ほど付き合ったが、一度も大切にされたと感じたことはない。
いつも約束を破り、話したことは何も覚えておらず、道端で偶然会っても無視され、痴漢にあったと夜中に電話をしたらキレられた。
何をどうしたらこんなクソ男を好きになるのか、今のわたしには全然わからないが、本当に彼のことが好きだった。

ある時、わたしは賭けをした。
「デートのためにアルバイトを休んでほしい」と言う彼に、アルバイト命だったわたしは「わたしが休んだら、あなたも休んでくれる?」と尋ねた。
「休む」と約束をしてくれたから、わたしは1日だけアルバイトを休んでデートをした。

そして、そこから4ヶ月間、彼は一度もわたしと会うためにアルバイトを休まなかった。
だから、何度彼に「会おう」と言われても断り続けた。
「この日、アルバイトを休むから、デートしよう」の言葉を待ちわびた末、彼から出たのは、別れの言葉だった。

形式上、わたしはふられた。
だけど、実質ふったのはわたしだし、彼はわたしにふられたと思ってる。

◎          ◎

別れてから1年以上、彼はわたしとデートをしたときの写真を、LINEの背景にしたままだった。
当初、すごく気持ちが悪かった。
何があっても、わたしが彼を好きじゃなくなる根拠のない自信を持っていた彼が。
そして、失って初めて、大切さに気付いたように、追いかけてきたことが。

別れてから彼はわたしに何度も問う。
「あのとき、どうしてふったの?」
「あのまま、別れなかったら結婚してたと思う?」

彼はきっと、別れてからずっと、わたしのことを大事に思っていると思う。
別れてからは、いつも優しい。
彼が超クズだったとか、実は元彼だなんて知らない父に、「今の彼氏より、彼と付き合った方がいいんじゃない?」と言わせるほどに。

付き合っていた頃から、今ぐらい大事にしてくれたら、ずっと一緒にいられたかもしれないと、たまに思う。
だけど、わたしを大事にしてくれない彼は必要なかった。
それがわたしのふった理由。