これは、高校生になって初めて気になった人の話。

彼は、同じ部活で隣のクラスの男の子。育ち盛りの周りの男子と比べても背が小さくて細くて、華奢。顔立ちは三浦春馬さんにどこか雰囲気が似ていた。
外見こそ頼りなく見えるが、理系でそこそこ賢い頭脳の持ち主だった。運動部で足が速くてセンスがあって、先輩たちからもかわいがられる存在だった。

そんな彼とは部活がきっかけで仲良くなったのだろうが、もっと前から知っていたような気もする。気付けば個人LINEを交換して電話をしたり、部活帰りに2人きりで帰ったりしていた。お互い今までの恋愛経験の話を暴露するまでに仲良くなっていった。

部活では、高校から始めた初心者組として一緒に同じメニューをこなすことが多かった。友だちと遠くにいたり、近くで練習しながら話したり。気付けば彼がどこにいるのか探して、目で追っていた。外周を走っていると後ろから「ファイトッ」と笑顔で声をかけられると、なんだか恥ずかしくて調子が狂う。

これはどっちの「好き」?自分の気持ちがよく分からない

彼と2人で帰っているところを同じ部活の仲間や先輩によく見られた。
「あいつのこと好きでしょ?」
と友だちに聞かれるが、私は、
「そうじゃないって、仲いいだけ」
と反射的に返す。友だちは「ふーん」と言って疑いの目でにやけてこっちを見る。
「そうじゃないって」と、自分に言い聞かせてるみたいだった。

「あいつのこと好きなの?」と自問自答してみた。んー……。
確かに、彼の顔を遠くから眺めていると幸せな気持ちになるし、目で追いかけているのも事実。隣の教室の前を通りかかる度に彼の机の位置を確認するし、女の子とよく話す彼を見ていると少しうらやましいとも思う。1対1で話しているときは気を遣わないので本当に楽しい。当時の私は、この感情が恋愛対象としての好きなのかが分からなかった。

仮に男として好きな気持ちがあったとして、両思いだったら……いや、私の片思いで彼はそんなつもりじゃないとしたら……。
友だちに「やっぱり好きなんじゃん!」と言われるたびに、ますます自分の気持ちが迷子になった。好きなのかもしれないが、そんな風に友だちに言われたらなんだか悔しくて認めたくなかったのもあったと思う。
この気持ちは「男として好き」なのか、ただ一緒にいると楽しい男友達なのか……。男女の友情成立派の私は揺れに揺れた。

付き合ったら関係は変わってしまう。でも本当の気持ちを知りたい

私は、中学生の時に告白された男子と初めて付き合ったが、そもそも付き合ったらどうするのが普通なのか分からず、周りからはやし立てられるのも嫌で、気まずくなって自然消滅したことがあった。その経験が記憶に新しい当時高校生の私は、仲良くなった男の子と付き合ったら気まずくなって別れてしまうし、別れたあとも気まずくなって、もう以前のように仲よく話すことはできなくなるんだと思っていた(じゃあ仲良くない人と付き合うの?よく分からん)。
だから、彼に本当に好きな人ができるまではこの曖昧な関係のまま、いや、仲良しの友だちとしていたいと思った。

ところが、だんだん彼の周りの友だちが「あれお前の彼女でしょ?」などといじるようになったのにうんざりしたのか、あまり会ってくれなくなった。部活でもあまり話しかけてくれなくなったし、次第にLINEの頻度も少なくなっていった。

私は、彼の私に対する本当の気持ちが知りたいと思った。この曖昧な関係のままでもフェードアウトすればいいのに、私の性格は白黒はっきりさせたかったのだ。
普通に聞いても変わらなかっただろうが、友だちに相談するうちに「告ってみたら?サポートするから」という友だちの怪しすぎる誘いに乗って、とりあえず私が彼を好きということにして告白し、彼の本当の気持ちを聞き出すという作戦に出たのだった。
今となれば本当に愚行だったと思う。

ある日の部活終わり、大体みんなが帰った頃に彼を学校の近くの人通りの少ない路地に呼び出した。
彼に会った瞬間、私はもう既に後悔し始めていた。告白してもいないのにふられた気分になった。もう、元には戻れないことを察した。
とりあえず、「好きです。付き合ってください」と言った気がする。彼は予想通り、私をふった。
「俺は、本当に好きな人と付き合うから」

彼の優しい性格で今まで何人かと付き合ってきたが、その人たちを本当に好きになれなかったから後悔しているんだと、私に話してくれたことをその時思い出した。
私はそれを聞いていたのに、彼に同じことを繰り返させようとしていたのだと気付いた。同時に、一番知りたいことがよく分かった。

本当は気付いていた自分の気持ち。彼の気持ちを知るのが怖かった

帰り道、先回りして待っていた友だちと帰りながら、なんだか複雑な気持ちになった。
仲の良い友だちに好きなフリをして告白した。好きではないはずなのに、ふられたのがショックだった。

――本当に好きな人。
私は彼にとって恋愛対象ではなかったことが分かったわけだ。私が本当に彼を友だちだと思っていたとしたら、ふられたところで「じゃあこれからも友だちとして仲良くしよう」となって、安心して友だちとして接することができたはずだったのだが、そうではなかった。好きなふりをして告白したら、自分の本当の気持ちが痛いほどに分かった。

私は心のどこかで、彼に異性として見てほしくて、彼女候補として想っていてほしかったのかもしれない。でも、彼が本当はどう思っているのか、もし私だけが異性として好きなのだとしたら……。
そう思うと、彼の本音は気になるけど事実を知るのが怖かった。だから、無意識に友だちとして振る舞いつつも彼は異性として自分を見ていると思い込むことで自己防衛していたのかもしれない。

彼が私をふったときの台詞が忘れられない。
私も、本当に好きな人と付き合おうと思った。