束縛の激しい彼。絶対にスマホを見られないスキルを身につけた

大学時代の4年間、同じ一人の人と付き合っていた。
彼とは、お互いの親にも会わせたし、大学を卒業したら結婚すると思っていた。付き合って1年目は特に盲目で、一緒に居たければ何度か授業をサボったこともあったし、ほぼ毎日彼の家に転がり込んでは電車の時間を忘れてイチャイチャし、セックスしていた。歌の歌詞に出てくるような“どうしようもない二人”だった。

しかし、その4年間の中で、私は何度か浮ついていた時期があった。
彼氏はかっこよくて頭が良くて、優しくて大好きだったが、一つだけ困ったことがあった。
彼は束縛が強くて、男女大勢で飲みに行くと機嫌が悪くなったり、その飲み会がオールになったりすると、電話越しにブチ切れて部屋をめちゃくちゃにしながら暴れたりした。
私は、別の用事を伝え、行きたい飲み会には行ったし、仲良くなりたければ、キープとかそういう目的ではなく男の子にも連絡していた。絶対に彼氏にスマホを見られないように、上手くはぐらかすスキルをいつのまにか身につけてしまっていた。

これって浮気?「彼氏と別れて」という台詞を期待するように

彼氏とは学部が違うので、時間割も全然違う。言い換えれば、同じ学部やコースの人とは同じ電車で帰ることもある。
同じ資格免許の取得を目指す友だちの中で、家の方向が同じ男の子がいた。同じ授業を受けて、同じ電車に乗って帰り、駅で別れたと思いきや同じ電車に乗り換えてまた顔を合わせる。それがきっかけで、よく話すようになり、学年が上がっても何かと接点が多かった。
私にはよく嫉妬する束縛の激しい彼氏がいたことをその男友達は知っていたが、他の友だちも含めて飲みに行ったり、ご飯に行ったりした。その中で、お互いの話、彼氏の話など、深い話でいくらでも語り合えるくらいには仲よくなれた。

私は、その友だちのことを、人としても尊敬していたし、なりたい職業に就くために頑張る姿をよく見てきた。たくさん相談をし合ったり、お互いに励まし合ったりした。そうしているうちに、彼に好きな人ができたと言われた。

私には彼氏がいた。彼にも好きな人がいる。
なぜ、私はその時、心から応援できなかったのだろうか。
「どうやってデートに誘えばいいと思う?」
その男友達は、いつものように私に女子としての意見を聞いてきただけだったのだが、別に私に対して聞いてきた台詞ではないのに、「私だったら~」と誘われたフリをしつつ、それなりに回答した。
頑張れ!って応援したい。いい奴だから、そろそろ幸せになって欲しい。本当にそう思うのだが、
――本当は誰が好きなの?
――私のことは、見えてる?よね?
いつしか私は自分の中で、彼は彼氏持ちの私に気があって、「そんな彼氏とは別れて俺と付き合えよ」という台詞を期待するようになっていた。

――これって浮気……?
――私、浮気してる??
そんなことを思いながら、背徳感に酔いしれている自分がいた。

この浮ついた気持ち、手の届かないところに放り投げたい

月日は流れ、私たちは大学を卒業した。
コロナウイルスも流行りはじめ、きちんとさよならを言わないまま、その男友達とは今日まで会えていない。
大学時代ずっと付き合っていた彼氏とは遠距離恋愛になり、次第に気持ちが迷子になってお別れをした。

彼氏と別れた後も、何人かの人と付き合ったり、身体の関係になったりした。今はまた、結婚を約束している人とお付き合いすることができていて、幸せを更新している。
そんな今でも、その男友達は今どうしているのか、誰を想っているのか、たまに考えてしまう。終電を逃して彼の車内で一夜を過ごしたあの時、私に指一本触れなかったあの彼は、私のことをどう思っていたのだろうか……。

今は今の彼氏がいることで満たされているし、今更聞く必要もなければ、数年が経って聞くことも憚られる。せっかく再会したとしても、友だちのノリで接したいから気まずくなりたくもない。

というわけで、本当はこの浮ついた気持ちを封印したい。無かったことにはできないので、どこか人目に触れない手の届かないところに放り投げたい。彼氏とまた上手くいかなかったときに……とか考えたくない。
(とりあえず、ここに放り投げさせてください……)