振られた理由なんてわかりきってるじゃないか。
だって、私とキミの間には「恋」が生まれる余地がないのだから。
キミは1人で生きていける。
たまに、そんな事実に打ちひしがれる。
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ワクチン接種後の気怠さと体温の高さ。気圧差で生じる頭痛と倦怠感。身体の不調を感じる度、誰かが側にいてくれたら……と思いつつ、実際は誰にも助けを求めることもなくやり過ごす。そんな生活もだいぶ板についてきた。
身体の調子を崩すと、人は誰かに甘えたくなるものだ。不調によってバグを起こした脳に任せ、甘えたい誰かに連絡する。うまくいけばそこから恋が始まる……なんてものはフィクションの世界だけの話なのだろうか?
そんな心細さには身に覚えがありつつ、そんな展開には身に覚えがない。
だいたい、そんなときにキミを思い浮かべても、気軽に呼べるほどキミは近くに住んでいないし、そんなに都合よく脳ミソもバグは起こさない。
それはキミもきっと同じで……というか、たとえ脳ミソがそんなバグを起こしていたとしても、私を呼んでくれるとは限らないわけで。
そもそもキミは恋愛が煩わしいとか言っちゃってくれてるわけで。
そんなわけで、きっとキミは身体の調子が悪くても、誰に頼ることもなく、1人で生きていける人なのだ。
◎ ◎
「あ、ここに行きたいな」と思ったとき、自然とキミのことが思い浮かぶことがある。そして、キミに連絡をする。だいたいキミは付き合ってくれる。
でも、逆にキミは私といないとき、私のことを思い浮かべてくれることはあるのだろうか。
きっと答えはNOだ。
それとも「人を誘うことは苦手だ」というキミだから、誘ってくれることがないだけで、思い浮かべてくれることくらいはあるのかしら。
もしかしたら比較的一人行動が得意で、割とどこでも1人で行けてしまうキミは、そもそも誰かとどこかに行くという選択肢が最初からないのかも。
誘われれば気が乗らないところでない限り、どこでもついてきてくれるフットワークの軽さは、そのまま1人のときも存分に発揮されるわけだ。
キミは1人で生きていける。だから、私たちのなかで何かが始まることもない。
私も私で、「君の瞳に恋してる」と言えるほど、キミへの思いが情熱的だったら何か違ったのかもしれない。しかし、あいにく私のなかにそんな情熱は存在しない。
「人生を共にするならこの人がいい」
そんな確信が最初はあったのに――。
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私はキミを譲歩させるだけの情熱を持ち合わせていなくて、キミは誰かと一緒にいる気がない。
だから、私たちの間には何も生まれない。
私はいつか、キミ以外に、キミ以上に「人生を共に過ごしたい」と思える人に出会えるのだろうか。
キミはずっと独りでいるのだろうか。それとも、「私だから」キミの心を動かせなかっただけで、他の誰かと人生を共に歩んだりするのだろうか。
これから先、自分がそんな情熱を持てるような未来が想像できなくて。
これから先、キミが私以外の相手に情熱を注ぐことがあるかもしれないことが恐ろしくて。
キミが独りで生きていけるという事実が、たまにとても安心させられて、たまにとてつもなくニクくなるのだ。