友達の壁を越えたら元には戻れない。「今まで通り」は都合の良い妄想

今までふった人のことは全員覚えている。
数もそんなに多くはないから、覚えているのは当たり前なのかもしれない。
その人の性格、表情、私と話すときの様子、全て覚えている。
過去を回想して思い浮かべるのは、どうして彼らが私という人間を好きになってくれたのか、ということ。
私はそんなに良い人間ではない。
でもこんな私に想いを告げてくれる人もいた。
そんな優しい彼らを私はふったのだ。
理由はただ一つ。
“友達の壁を越えたくなかった”だけ。
要は友人関係が変わるのが怖かったし、嫌だった。
付き合ってしまったら、今までみたいな馬鹿騒ぎができなくなる。
周りから「付き合っている人たち」という見方をされる。冷やかされる。
そんなふうに変わってしまうのが嫌だった。
そもそも好きという感情が私には分からなかった。
“特別”って何だろう。“普通の好きとは違う”ってどういう意味?
思い出されるのは過去の記憶。
「俺のこと、どう思ってる?」と彼が聞く。
「え?一緒にいて楽しいし、普通に好きだよ?」と私は答える。
「でもそれって“友達として”って意味だよね?俺は違う」と彼は言う。
俺は違う?どういう意味で?
何?なに、なに…………。
考えても考えても理解できない。
理解不能なことが、私は好きではない。
ちゃんと答えのある問題が好きだ。
でも“好き”という感情に模範解答はない。
各々の感覚が全てだ。
「物事には全て理由がある」と決めつけていた私には、恋愛という問題は明らかに向いていなかった。
だから私は相手を傷つけてしまった。
私が彼らをふった時、彼らがどう思っていたかを知らない。
彼らの表情を見た。
「もう戻れない」というような顔をしていた。
私は馬鹿だ。
“友達の壁を越えたくなかった”という理由で彼らをふったのに、ふった後で“今まで通りの関係”でいることなんて無理に決まってるじゃないか。
それは私の都合の良い妄想だった。
私は高校の頃ずっと、ふったら今までと同じ関係に戻れると思っていた。
だからその後も態度を変えることなく彼らに接した。
その姿は彼らには、どのように映っていたのだろうか。
「無神経なやつだ」と思われていたのではないか?
そうだ。私はこの世で一番、無神経なやつかもしれない。
私は自分勝手で、相手を思いやることもせず、ただ一方的に切り離した。
そうすることで“また初めからやり直せる”と信じていたのだ。
恋愛はゲームだと、ある友達は言っていた。
でも恋愛はゲームなんかじゃない。
人の想いは簡単にリセットなんかされない。忘れることなんてできない。
忘れることが簡単にできたなら、心だって傷つかない。
どうしてそんな大事なことに私は気づかなかったのだろう。
“越えてしまったら”最後、もとには戻れないのに。
私には今、好きな人がいる。
その人と少しでも一緒に居られるように工夫しては空回りして、もうどうしようもない状況だ。
初恋ゆえに何をしたらいいのか分からず、相手を傷つけてばかりいるかもしれない。
あの人と話す時、私は彼らを思い出す。
「あぁ、彼らもこんな気持ちだったのか」と。彼らの立場になってやっと考えることができるようになった。すごい今更だけれど。
私もいつか、“越える”日が来るのだろうか。
そして、ふられてしまうのだろうか。
考えるだけで心が萎縮してしまうが、彼らもきっと同じ気持ちだっただろう。
今になって彼らの気持ちがよく分かる。
彼らに伝えたい。
あの時は自分勝手にふってしまってごめんなさい。
今、私にはあなたたちの気持ちがよく分かる。
私もあなたたちと同様に“越えて”みせるから、どうか見守っていて。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。