今までふった人のことは全員覚えている。
数もそんなに多くはないから、覚えているのは当たり前なのかもしれない。
その人の性格、表情、私と話すときの様子、全て覚えている。
過去を回想して思い浮かべるのは、どうして彼らが私という人間を好きになってくれたのか、ということ。
私はそんなに良い人間ではない。
でもこんな私に想いを告げてくれる人もいた。
そんな優しい彼らを私はふったのだ。

理由はただ一つ。
“友達の壁を越えたくなかった”だけ。

要は友人関係が変わるのが怖かったし、嫌だった。
付き合ってしまったら、今までみたいな馬鹿騒ぎができなくなる。
周りから「付き合っている人たち」という見方をされる。冷やかされる。
そんなふうに変わってしまうのが嫌だった。

◎          ◎

そもそも好きという感情が私には分からなかった。
“特別”って何だろう。“普通の好きとは違う”ってどういう意味?
思い出されるのは過去の記憶。

「俺のこと、どう思ってる?」と彼が聞く。
「え?一緒にいて楽しいし、普通に好きだよ?」と私は答える。
「でもそれって“友達として”って意味だよね?俺は違う」と彼は言う。

俺は違う?どういう意味で?
何?なに、なに…………。

考えても考えても理解できない。
理解不能なことが、私は好きではない。
ちゃんと答えのある問題が好きだ。
でも“好き”という感情に模範解答はない。
各々の感覚が全てだ。
「物事には全て理由がある」と決めつけていた私には、恋愛という問題は明らかに向いていなかった。

だから私は相手を傷つけてしまった。
私が彼らをふった時、彼らがどう思っていたかを知らない。

彼らの表情を見た。
「もう戻れない」というような顔をしていた。

◎          ◎

私は馬鹿だ。
“友達の壁を越えたくなかった”という理由で彼らをふったのに、ふった後で“今まで通りの関係”でいることなんて無理に決まってるじゃないか。
それは私の都合の良い妄想だった。
私は高校の頃ずっと、ふったら今までと同じ関係に戻れると思っていた。
だからその後も態度を変えることなく彼らに接した。
その姿は彼らには、どのように映っていたのだろうか。
「無神経なやつだ」と思われていたのではないか?

そうだ。私はこの世で一番、無神経なやつかもしれない。
私は自分勝手で、相手を思いやることもせず、ただ一方的に切り離した。
そうすることで“また初めからやり直せる”と信じていたのだ。

恋愛はゲームだと、ある友達は言っていた。
でも恋愛はゲームなんかじゃない。
人の想いは簡単にリセットなんかされない。忘れることなんてできない。
忘れることが簡単にできたなら、心だって傷つかない。

どうしてそんな大事なことに私は気づかなかったのだろう。
“越えてしまったら”最後、もとには戻れないのに。

◎          ◎

私には今、好きな人がいる。
その人と少しでも一緒に居られるように工夫しては空回りして、もうどうしようもない状況だ。
初恋ゆえに何をしたらいいのか分からず、相手を傷つけてばかりいるかもしれない。
あの人と話す時、私は彼らを思い出す。
「あぁ、彼らもこんな気持ちだったのか」と。彼らの立場になってやっと考えることができるようになった。すごい今更だけれど。

私もいつか、“越える”日が来るのだろうか。
そして、ふられてしまうのだろうか。
考えるだけで心が萎縮してしまうが、彼らもきっと同じ気持ちだっただろう。
今になって彼らの気持ちがよく分かる。

彼らに伝えたい。
あの時は自分勝手にふってしまってごめんなさい。
今、私にはあなたたちの気持ちがよく分かる。
私もあなたたちと同様に“越えて”みせるから、どうか見守っていて。