カロリーメイト一箱。一日に食べていいのは、それだけだった。
女子校は容姿の比較でカーストが決まる。話が面白いとか、おしゃれだとか、他にも人格的な部分でまわりに人が絶えない子はいたけれど、結局いつも中心にいたのはスタイルが良くて可愛い子だった。

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可愛くもなければ、スタイルも良くない。それでも私は居場所が欲しかった。お昼休みに教室の端で、誰にも話しかけられないように、黙々とお弁当をかき込むクラスにハブられた子には、なりたくなかった。
でもきっと、その思いはみんなの中にあった。私はとにかくたくさん食べて悪目立ちし、笑いを誘うフードファイター的な立ち位置を獲得した。
寮生活で朝から食パンを一斤食べる。真っ白な皿に積み重なったこんがり焼けた食パンが、異様な存在感を放っていた。
朝起きてから、水は飲まない。お腹が膨れるから。蜂蜜やジャムは塗らない。口の中が甘さで満たされると、手が止まってしまう。とにかくカサカサした無機質な物体を、私は笑顔で食べ終わる。
「やべー、本当に食べたよ。大丈夫?」
笑いながら手を叩く先輩、後輩、同級生。
成長期の女子高生が自分の体型を気にしないはずがない。みんな食パンはなしで、とか半分で、と決めている。なかにはスープだけの子もいる。そんな中で私はとにかく食べ続けた。

やがて「頭の悪いいじられキャラ」が定着してきた時、私は自分の居場所を掴み取った気がした。どんぶりに並々とよそわれたカレーうどんを虚ろに眺めながら、「いじり」が、周囲の「期待」が私の対処できる範疇を超えてきたことを悟った。
麺はスピード勝負。噛まないで飲み下す。汁を吸った麺が一番お腹に溜まってしまうから。

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ある日、当然のことながら制服のズボンが入らなくなった。
ほとんどの子がスカートだったけれど、当時の私にとってスカートは女性性を主張するモノ。髪は校則ギリギリまで短くして、Bホルダーで胸は潰していた。ズボンが入らなくなって初めて鏡でありのままの自分の身体を見た。
醜かった。あるはずの無い膨らみや曲線が憎らしくてたまらなかった。

ツイッターに溢れる「#中性さんと繋がりたい」。中性って、男装ってなんだ。保健で習ったLGBTQって、虹色の旗って、そもそも自分をどこにカテゴライズすればいいの?私の身体は私だけど、俺のものでもあるんだよ。身体の性で俺をころさないで。

それから私は10キロ痩せた。それでも、ダイエットに終わりはなかった。
カロリーメイト一箱。一日に食べていいのはそれだけだった。
女子校を卒業して好きな髪型と服装ができるようになり、気の合う男友達もできた。徹底した食生活によって体重はどんどん落ちていった。
数字は勲章だった。でも、身体はどんどんボロボロになっていき、髪はパサパサになり、生理はとまった。入院を強いられて私は、自身の身体、容姿に対し過剰な自意識を持った自分よりも若い子たちと出会った。

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カロリー計算された入院食のノルマである二分の一を食べられない日は点滴をする。ルートを取られて、ノルマを食べるから抜いてくれと、泣きながらナースステーションで人を呼び続けた。そこでふと鏡を見て、立ち返った。看護師に付き添われて体重測定をするとき、目の前にあった全身鏡。
私の身体は、美しくなかった。

きっと、ぽっちゃりと普通と痩せてるって、男女間だけでなく女性同士でも感覚が違う。許せる許せないが絶対的に違う。
でもみんな自分を肯定したいし、好きになりたいんだよな。