コンプレックスと思っているわけでもないが、私が自分の体の中で気にしているところと言えば胸である。
気にしているというとあまり響きが良くはないし、胸以外完璧なのかと聞かれたら、勿論そんなはずもないのだが。気にしているというほどでもないかもしれない。あまりよく分からない。
コンプレックスなど考えても仕方がないから、普段は意識していなかったが、それでも街ゆく女性の胸を見てしまうことは何度もあった。特に今のような薄着の季節は。ぼんやりと胸を気にしているのだな、とは自分でも気づいていた。

◎          ◎

そんな風に過ごしていたある日、事件は起こった。ある意味、コンプレックスとして確定せざるを得ないような出来事だった。
好きな人と関係を持ったその時、服をまとっていない私の上半身を見て、彼は私に言ったのだ。
「胸ないね」と。

すごい言葉である。色々とツッコミどころはあるが、あまりにデリカシーがない。
当時から胸が小さいと自覚していたとはいえ、さすがにそれを、男性からはっきり言われたことはなかった。だから衝撃であったし、それ以上に傷ついた。当然である。

なんでそんなことを言う人のことが好きだったんだろうと、今なら思う。結局、その人とは付き合うこともなく関係が終わったから、結果としては良かったのだ。
かくしてその日から、私の胸はコンプレックスとして認識されることとなった。ひどい話である。

◎          ◎

それから数年が経った先日、またある事件が起こった。男性に胸を触られることがあり、実際のサイズよりも大きく見積もられたのだ。
何を言ってるんだこの人は、と思った。脳裏に浮かぶ、あのひどい言葉。
だが、それと同時に、私は少し気になった。他の男性からはどう見られているんだろう、と。

男友達二人に聞いてみることにした。さすがに触らせてはいない。目視による予想である。結局、触った男性を含め三人とも、実際よりもワンサイズ大きく予想してきたのだ。
驚いた。胸が大きいと言われたわけではないが、胸がないと言われたことがある私にとって、実際より大きく見られることは嬉しいことであった。それも複数の人に。
胸がない、と言われた過去に、ある意味感謝である。

調子に乗った私は、意気揚々と人生で初めて下着の採寸に行くことにした。男性陣の予想が正しいか確認しようと思ったのだ。
結果はと言えば、普段自分が認識しているサイズであった。多少がっかりした。
でも、こんなことでめげる私ではない。確かに採寸によって、明確なサイズはわかったけれど、下着もそのサイズを付けているけれど、もう私は、男性陣が予想してくれたサイズであると思うことにした。それでいいのだ。私がそうだと納得すれば、それが私にとっての事実になる。

自分の想像より実際は胸が大きい、もしくは大きく見えていると思うと、今までよりほんの少し自信が持てた。色んな人の胸を見て、触ってきた男性達が言うのなら、きっとそれが事実なんだよね、そう思っている。

◎          ◎

男性によってコンプレックスにされ、奇しくも男性によって自信をつけてもらう。皮肉である。
良い言葉には耳を傾け、都合の悪い言葉は聞かなかったことにする。それでいい。なんでも間に受けすぎてはいけない。いくらコンプレックスがあっても足りないことになる。そうやって私は都合よくこれからも生きていく。

今だって私は胸の大きい人がいれば、見てしまう。羨ましいのかもしれない。
でも、それはそれ。これはこれ。
大きさだけじゃない、私の胸だって良いじゃん、そう思う。