ある日、知り合いのマダムに「よかったら…」とセミオーダーでブラジャーを一つ作れるくらいの商品券を頂いたことがあった。

セミオーダーのブラジャーは私を「いい女」にしてくれた

マダムは昔から胸の形にコンプレックスがあったらしく、そのせいでずっと私の胸が気になっていたらしい。「そんなに胸見られてたんだ…」と少し思ったが、ありがたくひとつ作らせてもらうことにした。

セミオーダーブラは、いくつかある型と柄から好きなものを選んで、自分の胸のサイズと形に合わせて作ってもらえる。私はどうせならちょっとセクシーなものが欲しいと思って、黒色のレースのブラを選んだ。
一つのシリーズに意外といくつかの選択肢があって、色んなブラを試着できてとても楽しかった。それにやはり良いブランドのブラジャーは谷間を美しく作れて、胸とのフィット感も完璧だった。そのブラをつけるだけで、なんだか「いい女」になった気がした。

「横に流れてるで」姉の一言で下着屋に走ったら胸が大きくなった

胸に関しては、もっと前の話なのだが、もう一つエピソードがある。大学生の頃のある日、姉に「あんた、胸が横に流れてるで」と言われたのだ。
私は成長期の胸が膨らんでくる頃から太り始めたし、しかもずっと「遺伝からして胸もどうせ小さいんだろう」と思いこんでいたから自分の身体に興味が湧かず、ずっと適当なノンワイヤーブラしかつけたことがなかった。太ってるし、モテないし、コンプレックスも多い私は、胸なんてどうでもよかった。しかし姉にそう言われて改めて身体を鏡で見てみたら、恐ろしくなって大急ぎで下着屋さんに走った。
思い込みとは恐ろしいもので、ずっとAカップぐらいだと思っていた私の胸は、全然もっと大きかった。ちょっと嬉しかったし、「こりゃちゃんとしたブラをつけないといけないサイズだ」と思った。
ちゃんとしたブラを着けると、なんだか新しい武器を得た勇者のような、レベルアップしたような気持ちになった。それから少しずつ自分の見た目にも興味を持つようになったし、身体のケアも楽しくなってきた。

一重まぶたで地黒 「王道」から外れた自分が嫌だった10代

「女の子が可愛くするのって、男にアピールする以外になんか意味あんの?」
そんな矢先、こんな事を男性の先輩に言われたことがあった。その時は咄嗟に何も返せず、違和感を家に持ち帰ってしまったけれど、よく考えてみると物凄く時代錯誤な価値観だと思った。
もし彼の言うことが正義だったら、日本中の女の子全員が男性受けする服を着て、男性受けするメイクだけを極め、男に媚びるだけの気色の悪い世界になってしまうだろう。

私は一重まぶただし地黒だから、ぱっちり二重で色白のいわゆる「王道のかわいい」からは遠いところに生きている。10代の頃はそれがすごく嫌だった。アイプチしたり日焼けにも気をつけたらそれに近づけただろうけど、その努力も面倒で現実逃避していた。

モブキャラから主役に 姉のおかげで自己肯定感が上がった

そのせいか私はずっと自分が「モブキャラみたいだな」と思っていた。
でも今は自分の見た目もそれほど嫌いじゃなくなった。一重のおかげでアイシャドウは割と派手にしてもしつこくならないし、地黒の肌は似合う色と似合う服の系統を見つけたら結構映える。「王道」ではないけど、自分が気に入って格好良くいられるのだったらそれでいい。
女に生まれてもなんの得もした事ないな、とずっと思っていたけど、先に述べたように私の場合は、姉のひとことでブラジャーを買いに走った日から少しずつ生活が楽しくなった。それは胸という強みを得て、低かった自己肯定感が少し上がったからだと思う。
お気に入りの下着にお気に入りのワンピース、お気に入りの靴とそれに合う靴下。お気に入りの指輪とイヤリングを着けて帽子を被る。最後にその日の気分に合った香水を2プッシュ。全身をお気に入りで飾りつけた時、まるで自分が映画の主人公になった様な気持ちになる。太陽は私だけの照明として私だけを照らし、世界全部が「私」という物語の背景になるのだ。