大学4年の初夏。
私はいつの間にか始まっていた恋に、終わりを告げることになった。
それからまもなくして短い梅雨が明けた。皮肉にも私のもとから彼を奪っていったかのように。

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さかのぼること数か月前、それは去年の冬のことだった。
ひょんなことから飲むことになった相手は、1個下のバイトの後輩。
その時期、私は就活が少しずつ本格化していた頃で、でもプライベートでは何人かの男性と同時期にデートを重ねていた。デートと言っても好きとかいう感情は全くなく、付き合ってもないし付き合うつもりもない。ただ一緒に出かけて喋るだけ。そして一方の後輩くんもまた、何人もの女の子と遊んでいた自他ともに認める「女たらし」(笑)。
そんな感じで状況が似ていた私たちはすぐに意気投合し、定期的に飲むようになった。そしてこの頃から毎日LINEをする日々が始まった。

年が明け、私たちは地元で飲む以外でもふたりで出かけることが多くなった。
中目黒のロースタリーに渋谷の居酒屋、皇居の近くに桜を見に行ったり。最後は家まで送ってもらって名残惜しくもばいばいするのがいつもの流れ。暇なときには電話したりもした。思い返せばバイトも含めてこの頃、私たちはほぼ毎日顔を合わせていた。
別に好きとか思ってもいなかったはずだったし、ただ気の合う後輩としか思っていなかったけど、今思えばもうほぼ付き合ってるも同然の関係だった。

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4月ももう少しで終わるころ、いつものように私たちは地元で飲む約束をしていた。
美容院で染めたての髪の毛をみて、「かわいい」「僕、その髪色にそれぐらいのロングヘアが一番好き」ってたくさん褒めてくれて、凄く私は嬉しかった。
そして何時間か居酒屋で飲んだ後、ふたりでカラオケに行った。度数の高めなお酒を飲みながらKPOPを流し、お互い程よくお酒が回ったころ、私は彼に寄りかかりながらうとうとし始めた。
ちょっとして彼が「キスしていい?」と言ってきた。
なんで?ってきいたら「キスしたくなった」って。
彼が口の達者な女たらしなのは知っている。いろんな女の子にこういうことを言っているのだろうと分かってはいたものの、彼のことが少しずつ好きになりかけていた私は照れ隠しもかねて「えー」って少し渋ってみせた。その様子をみて諦めたかと思った数秒後、不意打ちでキスされた。

「……(今のはなんだ)」

一瞬時間が止まった気がした。というか頭が追いついていなかった。
ようやくキスされたんだと分かってから彼の目を見つめ返すと、彼は「キスしてほしいの?」ってまたキスしてきて。そして囁くようにかわいいってたくさん言ってくれた。ずるい。好きになっちゃうじゃん。
それからはどちらからともなく求めあうようにキスをし、息が苦しくなるぐらいに舌を絡ませていた。

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でもそんな幸せな日々は長くは続かなかった。
ひょんなことから少しずつ関係は悪化し、今まで高頻度で会っていたのに徐々に会う回数も少なくなり、LINEのやり取りも減っていった。そして、彼とLINEで本音を言い合った末、とうとうこう告げられた。
「もう2人で遊ぶのはやめよう」
この日、私はこれでもかってくらいたくさん泣いた。多分あの日は私の21年の人生で一番泣いたのではないかと思う。

そこから立ち直るまで軽く数週間は経っただろうか。完全に食欲も失い、どんどん瘦せていく私を周囲の友人がとても心配していた。
この状況になってようやくわかった。私は彼のことが大好きだったんだって。
同じバイトだったから、同僚から「そこなんかあるの?」って言われたこともあったけど、聞かれるたびになにもないって言っていたし、気まずくなりたくないから自分の気持ちにフタをしていた。
でもやっと正直になれた時には、彼はもう私のそばにはいなかった。

彼と最後にLINEをして1か月が経った最近、彼は近隣店舗に異動が決まった。そして8月。彼はついにいなくなってしまった。
今まで毎日LINEしていてたくさん遊んでもらった彼と「普通」の関係に戻れなくなった私にとって、バイトが唯一彼と会える機会だったのだが、その機会すらも無くなってしまった。寂しい。

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彼と一緒に出掛けたところを通ると彼を思い出し、当時付けていた香水を嗅ぐだけで脳裏をよぎる。音楽を聴くだけでも思い出してしまう。
それだけ私には濃い思い出なんだ。こんなに誰かを好きになったのは初めてだった。そしてこの恋はずっと忘れることは出来ないんじゃないかって思っている。

いつかあなたが言ってくれたよね、「○○さん(私)、ほんと明るくなったよね、接しやすくなったし今の方が断然いいよ」って。自己肯定感が誰よりも低くて根暗な性格の私を、ここまで前向きな性格に変えてくれたのはあなただよ。
就活で嬉しかった時も辛かった時も、常にあなたが心の支えになっていたし、たくさん私と遊んでくれて、たくさんかわいいかわいいって褒めてくれて。それがたとえお世辞だったとしても私がどれだけあなたの存在に救われていたか。
今更もう伝えることはできないけれど、本当に幸せだった。たくさんのありがとうとごめんねの気持ちでいっぱいです。
今はまだ私はあなたのことを忘れられない。やっぱりあの頃に戻りたいなって思うし、あなたが他の女の子と遊んでいるのを見るのが辛い。それでもあなたがくれた幸せを胸に、がんばって前に進もうとちょっとずつ努力する。

今、大事な人がいるそこのあなた。これから大切な人ができるかもしれないあなた。そんなみんなに伝えたい。
当たり前のようにいる人も、急にいなくなってしまうかもしれない。だからこそ伝えられる時に自分の気持ちに正直になってほしい。そして「ありがとう」の気持ちを直接伝えることの大切さを私は大学4年にして身をもって実感した。

いつか……いつか、あなたとまた直接話せる時がきたら、最後にこう伝えるんだ。
「私、あなたのことが大好きだったよ。たくさんの幸せを教えてくれてありがとう」