当時、付き合っていた彼氏とギクシャクし始めたとき、「もう私たちの関係は潮時かな」と思った。
既に「価値観のすれ違い」に私は気づいていたけれど、「2年以上付き合ってきたのに、今別れてしまうのはもったいない」と思った。
長く付き合っていると、たとえ「もう合わないのかも」と思ったとしても、「別れる」ことへの躊躇がある。
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今までお金も時間も費やしてきたのに。
彼と一緒にいるために夢を諦めたこともあるのに。
友達にも両親にも交際を公言してしまったのに。
「今更別れられない」
そう思ってしまった。
なぜなら、私たちは舞い上がって、周囲から固めてしまったから。
彼は、彼の両親に私をすぐ紹介した。
「この人となら結婚したいかも」と思った私は、私の両親に相手を紹介し、カジュアルな場ではあったが、両家の両親が顔を合わせる機会も作った。
私たちは、舞い上がって、周囲からガチガチに固めてしまった。
だけど、人生何があるか分からない。
「この人となら別れない気がする」
そう確信したのに、結局別れてしまった。
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別れる前の数か月間、そっけない「おはよう」と「おやすみ」が中心のやりとりになっていたけれど、私は「あと数か月頑張ろう」と思っていた。
彼とよく話し、それでも理解し合えなかったら、きっぱりと別れられると分かっていた。
次第に「好きだよ」が言えなくなった。
「好きだよ」と言ってくれる彼氏に対して、オウム返しで「好きだよ」と言えば、「まだ付き合っていられる。別れずに済む」と分かっていたけれど。
嘘をつくのは苦手ではないはずなのに、ただ「好きだよ」とキーボードを打てばいいだけなのに、「好き」という感情がどこかに飛んで行ってしまった。
「もう私たちの関係は直らない」
そう、気付いたとき、思い立って当日のヘアサロンを予約した。
付き合っていた彼氏は、私の黒髪ロングヘアが好きだった。
だから、ヘアサロンに行っても、常に胸が隠れるくらいのセミロングまでしか、髪を切らなかった。
そんな私が、数年ぶりに25cm以上バッサリを髪を切り、黒髪も卒業した。
ニュアンスカラーでブラウンを入れて、新しい“わたし”を手に入れた。
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女の子は失恋すると髪の毛を切るというけれど、女の子にとって美の象徴である髪の毛を切ることは、「これ以上付き合っていても意味がない恋愛」にさよならを告げることだ。
髪型だけではなく、持ち物も変えてみた。
普段はコンタクトレンズを使っているけれど、在宅勤務用に使っていた黒縁メガネは、優しい印象を与えるような、大きめの丸縁メガネにした。
髪色に合わせて色は茶色にして。
新しいメガネをかけて出かけた時、「クリエイティブエージェンシーで働いているおしゃれな個性的な人みたい」と言われたことが嬉しくて、気に入っている。
元彼は、私がミニスカートを履くと心配するようなタイプだった。
でも、本当はミニスカートにハイヒールをあわせると気分が上がるし、好きな服を着て、好きなメイクがしたい。
「○○君の彼女」ではなくて、「わたし」らしくいたいから。
黒髪ロングヘアの優等生の女の子が、ふんわりと柔らかい印象の、独特な個性的な雰囲気をまとう女の子に変身した。
久しぶりに会う友人たちは、声を揃えて「大人な女性になった」と、褒めてくれた。
あまりに印象が変わりすぎて、「えっ、誰かと思った」と言われた。
髪の毛を切ったら、「もう十分頑張った、だからこの恋愛は終わりにしよう」と思えた。
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3年も付き合った彼氏と別れた後、私は、久しぶりの、フリーな状態を楽しみながら、
新しい恋をしている。
「別れ」は悪いことではない。
「出会い」に「別れ」はつきものだから。
「人生は恋愛だけではない」ということに気づいた人は、強く生きられると思う。
だから、今まで「自分は似合わないなぁ」と思っていた、フリルがついたブラウスを買って、新しいパンプスを履いて、るんるんな気持ちで、今日も朝の支度をする。