こっそり彼との子どもを作ってしまおう。それを思いついたときはとても名案だと思い、ニヤニヤしてしまった。月曜日の仕事終わり、一人でワインを飲んでいた時だった。

私にはいわゆるセックスフレンドがいる。彼は仕事の傍らで行っているビジネスコンペなどに忙しく、今は彼女を大事にできる自信がないと言って、私の付き合おうという申し出を二度も断った。それでも、私は彼のことが好きで一緒にいたいと伝え、今のままの関係でもいいからと、なんとか彼の一番近くの座を手に入れた。
彼は基本的にはとてもポジティブで、悩みがないのが悩みというタイプだが、時々自暴自棄になることがある。そうなった時に彼がよく口にするのが「潔く死にたい」という言葉だ。
決してネガティブな意味ではなく、ただ後腐れなくこの世を去りたいだけと彼は言う。ただ、家族が心残りだから、今は死ねないけど、と。

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彼は急に仕事を辞めたり、後先を考えないところがある。私はそれがとても怖い。来年、彼は生きているのだろうか。不安に思った時、ふと、彼の子どもを授かれば間接的ではあるが彼との関係が続くのではないかと気づいた。

彼のことは手に入れられないかもしれないが、彼の子どもを手に入れることは物理的に可能だ。私は常にピルを飲んでいて、避妊具をつけるのが煩わしいのもあり、基本的に私たちはいつも避妊具なしで行為をしている。だから、こっそりピルを飲むのをやめて、自然妊娠を試みようと考えた。もちろん、彼女すら大事にできないという彼に子どもという重責を与えるつもりはさらさらない。

仮に妊娠したとして、つわりがきたら会えなくなるだろうが、お腹が目立ってくるまでは、彼に会い続けたい。つながる行為も継続したい。そして、隠しきれない段階に至ったら、一定期間彼の目の前から消える。
きっと彼は心配するので、私は転勤になったと嘘をつく。この関係も解消だね、さようならと潔く彼に別れを告げる。多分、お互い涙を流すことになるだろう。そうして、ひっそりと彼の子どもを産んで、私の家族に支えられながら子どもを育てていく。ひと段落ついたら、何事もなかったように彼の前に現れて、今までと同じだらりとした関係に戻る。

いつか彼は何年後かにふと子どもが欲しくなるだろう。だけどその時には四十近くて、今から子どもを育てるのはきついかもねと苦笑いする。そんな時、実はねと言って彼の子どもの存在を教える。彼はきっと喜ぶに違いない。そうして私たちはやっと結ばれる。誰もが幸せになれる、正真正銘のハッピーエンドだ。

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なんて素晴らしいシナリオなのだろうと私は大まじめに考えていた。今思えば、友人たちの二子目ラッシュや、この夏に三十になるということもあって、焦っていたのだと思う。実際に母である会社の先輩に相談したら、親のエゴで子供を産むなとひどく叱られた。

子どもは親の所有物ではない。彼が手に入れられないから、彼の子どもを作るというのは私の自己中心的な考えに過ぎない。本当に彼の子どもが欲しいなら、彼に相談してみた方がいい。その上で、どうするか二人で決めなさい。

そういわれた時、私ははたと目を覚ました。
誰もが幸せになれるなんて大間違いだ。もし、彼が子どもの認知を拒否したら、子どもに父親の存在をどう説明するのだろう。愛し合って生まれた子どもだと、私は後ろめたさなく説明できるのだろうか。
なんて馬鹿な考えをしてしまったんだろう。何より、私自身まだ仕事に集中したいし、今すぐには子どもはほしくない。

その先輩に相談をしなかったら、おそらく実行していただろう。実際に私は妊娠の準備のためにピルを飲むのを止めていた。自分の人生ではあるが、立ち止まり、他人の意見に耳を傾けることがどれだけ大切か身に染みた。一人酒を飲みながらの考えにろくなことはない。
私は誕生日付近で彼に会うことになるだろう。彼女ではなく、セフレのファーストとして。来年は彼女になって、再来年は夫婦になれるように、私たちのペースで愛を深めていきたいと思う。