あなたと出会ったアルバイト先での思い出は、9年経っても鮮明だ

私は今年25歳になるらしい。
貴方と出会ったのは高校1年生の時、16歳の頃だ。
初めてのバイト、初めての面接。
あの頃はかなりの人見知りであった私には新しい関係性を持つことが、ハードルが高く不安でいっぱいだった。

貴方と初めて会った時に交わした会話なんて、正直もう忘れた。
それでも、緊張していた私に笑いかけてくれたあの声も、はやく馴染めるようにと思ったのか、渾名をつくってバイトに行く度に、笑って呼んでくれたあの顔は忘れられない。

貴方は私がバイトではいったその年に、就職を理由にバイト先を辞めてしまった。
勇気を出して渡したバレンタイン、アドレスをねだった小さなメモ。
貴方の名前で検索をかけて見つけた貴方の元カノのブログ。
年の差を理由に見事に振られたのだか、きっと必要な出来事だったと思っていた。

変わらない笑顔をくれたあなたに、大人になったアピールをしたかった

20歳になる頃の再会は要らなかった
元バイト先の先輩方との呑み会。
先述した通り、人見知りの甲斐あり、元バイト先の先輩達と連絡はとっていなかった。
ただ同い年の女の子とだけは、頑張って仲良くなった覚えがある。
その子に突然「呑み会来ない!?」と誘われたのだった。
お酒の飲み方を少しずつ覚えてきた頃だったので、呑み会への興味もあり参加を決めた。
そこで再会した貴方は、昔と何一つ変わらない笑顔で私に笑いかけてくれたね。

そこでLINEを交換した。
久しぶりの再会、私も大人になった!と浮かれていたのだろう。
まだ飲み慣れないお酒を大人になったアピールをしたくて、久しぶりの再会の緊張を悟られないようにしたくて、たくさん、たくさん飲んで見事な絡み酒になったのは、忘れたい黒歴史である。

これさえなければ、貴方とのその後の出来事はなかっただろう。
貴方に絡んで絡んで絡んだ私は、20歳の誕生日を祝えとかなり強請ったらしい。
(らしい、とは覚えていないのである。記憶をなくす系、タチの悪い女である)

これでおしまいがなんだか寂しくて、始発まであなたの車で寝たけれど

お酒を2人きりで飲みに行く。2人きりで。
『2人きりのお酒』という何だか特別なワードに、私は浮かれていた。
お酒を飲んだ後は店を出て、川沿いを散歩した。
近くにはホテルもあったが、そんな展開にはならなかった。
タクシーで帰ればいい、大した金額にもならない場所だったのに、貴方が乗ってきた車で、始発が動くまで寝ると言った。

私だけでも帰ればよかったのに、タクシー乗り場まで向かったのに、これでおしまいが何だか寂しくて、そして一抹の期待を胸に一緒に車で夜が明けるのを待った。
寒い日で私の着ていたコートを、貴方と半分こで眠ったのを覚えている。
手を繋ぐことも、抱き合うこともなくただ眠った。
目が覚めた時、思った。
私は今でも16歳の時と同じ、ただの貴方が可愛がった後輩だった。

終電がある時間の別れ。頬を撫でてくれたときの表情は変わっていた

そして、あの夜。

貴方の誕生日を私がお祝いしたね。
ご飯に行くだけの予定だったけど、折角ならって貴方が予定を組んでくれた。
「日帰り温泉に行こうー!」
そんなLINEを見て期待しないのが無理という話である。
私が貴方のことをまだ想っていた事、気づいてたよね?
温泉にそれぞれ入ったあとに、貴方の予約していた個室で夜ご飯を食べた。
お酒を飲んで2人して寝っ転がって、お互いを見た。

そして2人で帰った。終電がまだある時間だった。
私は貴方に何度も聞いたね。
「なんで、なんで、なんでなの?」
駅から歩いて私の家に向かってる最中もずっと尋ねた。
お互いを見た後に、私の頬を撫でた時の表情だけは昔とは違っていたから。
その度に貴方は笑って「なんでもないよ」て言ったね。
貴方は、何を考えていたんだろう。
私は貴方のことを忘れられないまま、ここまで生きてきたよ。

貴方へ、今私は幸せだよ。
それでも貴方の誕生日になると、どうしても顔を思い出すんだ。もう要らないのにね。