私はものすごく影響されやすい。好きになったドラマがあれば、脳内はそれ一色になるし、ハマったアニメがあれば、キャラクターが発した言葉に感化され、ふとしたときに思い出し、励まされる。
効果がなくなる前にまた違うものを好きになり、まるで泡のように言霊の威力が消えては生じる。言葉には力があるけれど、それが心に引っかかるか、引っかからないかは、そのときの自分次第だ。

「好きな言葉は?」「座右の銘は?」と聞かれると、いつも一貫していなかった。そのときに影響された、他人の言葉を答えていた。一生掲げられるほどの言葉を探していたけれど、見つからなかった。今思えば人生の答えを見つけようとしていたんだと思う。
自分の人生や出るはずのない正解を、努力もせず他で探そうとしていた学生時代。それに気づいた二十代後半。
そんな私でも、今でもはっきり覚えている、背中を押された思い出ががある。

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「忍耐」に初めて出会ったのは、中学になって入部した剣道部。初心者だったが、経験者だらけの部員と腕の良い先生がいて、鍛えるには恵まれた環境だった。
3年の間で経験者と同じ土俵にあがれたが、その分稽古についていくのに必死だった。異性でも先輩たちは容赦なく、力の差であざは当たり前にできたし、完璧な縦社会だった。特にひとつ上の代はものすごく強く、目も合わせたくないほどの威厳があり、まるで男子野球チームの部員になったようだった。

厳しい稽古に泣きながら、鼻水も垂らし情けない姿を晒した。スマートに稽古をこなす、顔も良い先輩たちにとって、私は汚いものに見えたと思う。冷たい目つきがそう思わせた。

あれは確か、段審査だったと思う。記憶が曖昧になるほどいろんな場面で何度も思い出した。
初段を取得する前日、審査の対策をやり切って帰路に着くと、1人の男の先輩が私を追い越した。
すかさず「お疲れ様です!」と声をかけると、先輩も「お疲れ」と答えてくれた。そうしてまたぼけっと歩き始めると、先輩はわざわざ振り返って言おうか言うまいか、ためをつくって私に一言「頑張れ」と言ってくれた。

初めて言葉で胸打たれた。好きとか恋愛とか異性だからとかそんなのではなく、共に稽古をした仲間からの言葉は、何よりの励ましだった。

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緊張で震えてどうしようもないとき、いつも彼の言葉は私を励ましてくれた。
男女の友情が成立するかしないか。この永遠のテーマについては男女である限り後者だと思うけど、この出来事は男女を超えた友情を感じさせてくれた。

頑張っていないと言葉は突き刺さらない。弱っていたときは、愛する人の言葉さえ耳に入ってこなかった。
逆に何かに打ち込んでいたときは「頑張れ」というありきたりな言葉でも、十分私の味方になってくれた。

背中を押す言葉。今のところ「頑張れ」だけど、そのシンプルな励ましが心に響いたのは頑張る自分と、一緒に頑張る仲間がいたから。学校という特別な環境だけでなく、平凡なこの生活でも、その出会いは未知。
これからもこの言葉に支えられるほど、平凡な毎日だけれど、一生懸命生きていきたい。