カナダ横断の旅に、女友だちと2人で出かけた大学2年生の夏。約2週間をかけて、西海岸のバンクーバーから東はモントリオールまでバスで向かうというものだった。
旅の目的は大きく分けて3つ。
1つ目は、授業で学んだ教科書上のカナダの広大さを身に感じること。2つ目は、論文作成のための資料を入手すること。最後は旅仲間の女友だちの彼氏に会うこと。
うーん、若さに溢れた素敵な目的だと、今でも笑顔になるラインナップだ。
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この夏に経験した出来事、目にした風景は今でも私の中に間違いなく刻み込まれている。
例えば、バンクーバーで一度友人と別行動して私はアメリカのシアトルへ向かった。バスで国境を横断!島国である日本では決して経験できない出来事。世界は繋がっている……、この感覚は西欧諸国にいる方が身に染みて感じられるのかな、なんて途中下車のイミグレーションで思った。
そして友人と再合流して、山間の都市カルガリーからオタワまで向かう2日半のバスの中。寝ては起きて、休憩のバスターミナルでご飯を食べて、また寝て。ふと目が覚めて見える車窓の景色は、カナダそのものだった。
どこまでも続く牧場に湖。ずっと見ていると涙が込み上げてくるくらいの美しさ。これは旅の目的の1つ目であったが、20代目前の私に世界の大きさを黙って教えてくれた。
しかし、何もよかったことばかりではないのが旅の醍醐味。そもそもこの旅は、授業で学んだカナダ史から生まれたアイディアだった。旅仲間の女友だちも同じ授業を受けており、しかも彼女はこの旅からおよそ半年前にカナダへ1ヶ月程語学留学をしていた。
そこで彼女は淡い恋愛をしていた。私は論文でカナダのバイリンガル教育について執筆する予定だったため、彼女の彼に会う計画も旅程に入れることで、お互いウィンウィンで現実となった旅であった。
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私がシアトルへ向かい、彼女が先に次の都市へ向かって、また3日後に合流することになった。そして合流まではスムーズに済んだ。しかし……その後の旅程は決してスムーズにいかなかった。
予定していた日に山間の都市カルガリーで無事に友だちに会え、そのままカルガリーに2泊して更に東へ向かう計画だった。彼女の旅の目的第一位の恋人にも会い、二人の思い出のレストランに行くなどして楽しく過ごした。彼女はすでに3日前より彼と一緒にいるために、とても仲睦まじい雰囲気で私まで幸せになった。
だが、お別れが近づいた出発前日の夕方。念のためにバスターミナルで明日発のチケットを事前に買おうと私が提案すると、友だちの表情が曇った。
確かに1週間足らずの再会では彼女も満足できないか……。そう理解して、私だけ先に次の都市へ向かうことを提案した。しかし次の旅先までバスで2日半かかることが、彼女の首を縦に振らなかった。それだけ長い時間を一人でバスに乗るのは嫌だと。
これには困ってしまった。というのも、私自身が友だちカップルの中に1人いることに限界を感じていたのが本音だった。カルガリーはとても素敵な都市だが、決して大きくなかったために、2日あれば主要な観光スポットを周りきれてしまったのだ。
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これ以上ここにいることは、次以降の都市での観光計画を変更することにもなってしまう。どれだけ彼女を説得しても愛の力強し……。喧嘩状態で言い合ったものの、平行線のままで話が進まないので、仕方なくもう2日だけこの都市での滞在を延ばすことになった。
この2日で私がしたことは…地元の図書館に入り浸ることだった。お金の都合もあったし、可能な限り2人の中に入ることを避けたかったので、そうすることにした。
しかし、これがかなり快適で楽しくて好きだった。一つ想定外だったことは、重たいから旅の最後で買う予定だった論文執筆用の参考文献をここで買ってしまったことだ。1キロ近くある分厚い文献を運び続けることになってしまった。
そんなこんなで、涙、涙の別れをカルガリーでして、バスの長距離移動で首都のオタワへ。友人の彼とのドラマチックなお別れは、この2日半という長い移動時間が癒してくれたようだった。
その後はお財布を落としたり、宿泊先が確保できずに24時間営業のカフェで夜を明かしたり、迷子になったりもしつつも、モントリオール、トロント、ナイアガラの滝と回った。
一つ残念だったのは、予定していたケベックシティには時間の都合上行けなくなってしまったこと。しかし、そんなことを悔やんでいる暇もない程の感動がどの都市でもあったため、深く考えないまま成田空港に戻ってきた。
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あの夏より9年が経ったこの夏、今度は2人の学友とバンコクに行くことになった。
これは大学のプログラムなので、あの時のように自由に旅程を組むことはできないが、なんと言っても2年ぶりの海外に胸が躍っている。
あのカナダの旅以降も私は積極的に足を外へ外へと運んだ。あのカナダの旅で学んだ大事なことの1つは、旅程をほとんど組まないこと。だってどうせ予定通りにいかないから(特に恋愛が絡むと)。そしてもう一つ大事なことは、日本の空港で頭の中身を全て置いて、空っぽな状態で飛行機に乗ること。先入観なくその土地を等身大で楽しむことができるようになる。しかも旅のお供がいる場合は喧嘩しない秘訣でもある。
旅は楽しくなきゃ、出会う感動を素直に入れられなくなってしまう。
さあ、2年間の休息時間を経て、また世界を知る旅に出かけよう。