大学3年生の時、タイに1年間の留学をした。語学留学ではなく、現地の大学の授業を受けて単位を持ち帰る交換留学だった。
肝心の単位は成績不良により想定より3単位分少なかったし、その時学んだことは断片的にしか覚えていないけれど、この年私には外国人の親友ができた。
相手とは4年が経った今も親しくしていることも含め、かけがえのない経験だと思っている。

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私はそれまで海外に住んでいたことなどなく、留学へ行くその年に初めてパスポートを作って、1回海を渡っただけだった。ずっと留学に憧れていたので期待も大きかったが、やっぱり不安だったので、留学先の大学の学生がバディとしてついてくれるプログラムに申し込んだ。

そこで私のバディとして割り当てられたのが、今の親友だ。彼女にとっても、しっかり関わった初めての留学生だと聞いた。
一緒に食事をしたり旅行をしたりしてお互いのことを話し、少しずつ仲良くなっていった。最初の学期は他のタイ人学生と同じように、サポートしてくれる一現地学生のような相手だと思っていたけれど、留学の後半で一気に距離を縮め、今に至るまで関係を続けることができたと思っている。

2学期目が始まったタイミングで新しく来た他の留学生たちから、「2人はいつも一緒で、本当に仲がいいね」と言われることが増えた。それを聞いて、私は親密なタイ人の友達がいるのがとても貴重なことなのだと気づかされた。
バディだから当たり前だと思っていたが、他の日本人留学生のバディはそこまで面倒見がよいわけではなかったり、連絡が返ってこないこともあったりすると聞いた。私のバディの人柄と、私たちの相性の良さ故だったのだ。
実際、私たちの価値観や考え方、笑いのツボはとても似ていた。彼女はよく私をいじっていたが、愛のある楽しいものだったので私自身もそれを楽しんでいた。

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一度、こんなことがあった。私は同じ時期に留学に来ていた韓国人の留学生に恋をして、それは彼女にも共有していた。ダメ元くらいの気持ちで告白して、やはり断られてしまったのだ。
ちょうど同じころ、彼女は当時付き合っていた韓国人の彼氏と別れることになってしまった。それを同じ授業を受けているときに話し、似た経験を同じ時期にしたシンクロニシティにお互い涙した。その日出された課題は、2人とも覚えていなかった。

私の留学終了が近づくにつれ、残された時間を惜しむように一緒に過ごす時間も増えていった。
既にいろんなことを話した私たちだったが、伝えていなかった本音の部分を話したときに再びシンクロニシティが起きた。
私が留学先にタイを選んだ理由は、本音で言えばタイに思い入れのある元彼への感情が絡んでいたからなのだった。他の人に聞かれた時は、東南アジアの国で日本人や日本企業がどんな風に根付いているのか現地に住んで見たいと答えていたが、裏の本音の部分は彼女にしか話さなかった。

これに応えて、彼女もこんな話をしてくれた。彼女は今回初めてバディプログラムに申し込んだけれど、それも彼氏と別れて傷ついているときに何か新しいことをしたいと思ってのことだったようだ。
お互いに元彼への想いからとった行動が私たちを結び付けたんだと、これもまたすごい巡り合わせだと思った。

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私の帰国前夜、空港近くのホテルに一緒に泊まってくれた。その晩、いつも私をいじってばかりの彼女が真剣な表情で、涙まで見せながら「離れることは寂しいけど、別れを嘆くより出会えたことに感謝しよう」と言ってくれた。
離れるときに渡しあった手紙を、飛び立った飛行機の中で開いた私は思わず泣きながら笑ってしまった。「あなたがこの手紙を読んでいるということは、」という書き出しが一緒だったからだ。そして手紙の内容も、かなり似通っていた。やっぱり似た者同士だったんだと感じた。

留学が終わってからも、たびたび電話もするし半年や1年に一度は会った。働き始めたり、新しい恋をしたり、転職したりと毎回近況報告は尽きないが、あの頃のように冗談を言って笑いあえる。
日本人同士でも親密になることはそう簡単でないのに、国籍も言語も超えて親友ができたことは何よりの財産だと思っている。