久しぶりに出会ったら、付き合っていた頃と何にも変わらないから期待したら、やっぱりダメだった話だ。

私の忘れえぬ人は、大学時代付き合っていた3歳上の圭。バイト先の先輩だった。色白の塩顔、真っ黒な短髪、友達はほぼいない一匹狼で、本当にかっこよかった。常にどこか冷めていて、大人っぽくて凄くタイプだった。
だが、いまいち深く分かり合えなくて、彼が社会人になってしばらくしてから、未練タラタラのまま、仕方なく別れてしまった。このままモヤモヤ付き合っていても未来がない感じがしたのだ。

もともと私は圭にものすごく憧れていたこともあって、彼の前でずっとかっこつけていた。キラキラで可愛くて素直な女子大生を演じていたのだ。本来の自分を出せないのも虚しかった。ある晩、私から別れようと切り出し、電話口であっさりと別れてしまった。
「別れたくない。もっとお前のこと大事にする」とか言って欲しかっただけだったのに、圭は少し間を置いて「分かった。そうだね、別れよう」と、了承してしまった。

本気で別れたくなんてなかったのに。
そんな別れ方だったからか、私はずっと圭が忘れられなかった。色んな男性を見ようと思い、何人かと付き合った。けれど、圭より好きな人なんて現れなかった。

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圭と別れてから約1年半後、大宮でもう一度会うことになった。会いたくてどうしようもなかったのだ、私が。そしてもう一度圭と付き合いたかった。
そのとき私には新たに付き合っている人がいた。元彼に会って当たって砕けることを了承してくれる、不思議なスタンスの彼氏がいた。
圭の連絡先はずっと消せなかったから、勢いさえあればいつでも連絡は取れた。
しかし、たまに酔っ払ってだる絡みする以外は連絡しなかった。素面で連絡する勇気はなかったのだ。

初めてお酒の力を借りずに圭にLINEした。会いたい、とシンプルに。
「いいよー」と、返事は案外すぐに来た。
再会の場所として、圭は栃木に住んでいるのに大宮を指定してきた。大学時代からそのまま横浜に住んでいる私との中間地点を選んでくれたと都合良く思っていたが、今思うと、新たな自分のテリトリーに私を入れたくなかったのかもしれない。

再会までの数日間は、職場でもずっとフワフワした気持ちだった。今まで以上に、頭も心も圭に持ってかれていた。
大宮駅の改札で圭を見つけたら、やっぱりかっこよくて、やっぱり惚れた。服も髪型も姿勢も、何も変わっていないではないか。

「久しぶり」と声をかけた私の顔は、緊張と照れと圭に会えた嬉しさでかなり引き攣っていたと思う。
「おー、久しぶりじゃん」
圭のテンションは低いかな、と思ったら案外元気で、異常にワクワクした。圭が私の目を見てくれた。別れた2人には見えない、いつものデートの待ち合わせみたいだった。

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駅の商業施設で服か何かを見てぶらぶらしているときに私が冗談を言うと、圭が笑って軽く私の頭を叩いてきた。これは誰でも自惚れてしまう。一瞬、付き合っているみたいで楽しいという気持ちでいっぱいになった。私たち、やり直せるのでは?
その他にも、期待させるような圭の言動にいちいちドキドキしていたが、後半になると彼はそろそろ帰りたそうな素振りを見せてきた。

そうはさせぬと場を盛り上げようとする私。
レストラン街でしゃぶしゃぶを食べたあと、することも話すことも尽きた私たちは、駅周辺をぶらぶらしてファミレスに入った。
これは哀れな私に対する圭の大サービスだった。しゃぶしゃぶで食欲が満たされたらさっさと帰りたかっただろうに。
ドリンクバーとパフェを頼む私と、ドリンクのみを注文する圭。
どんなに粘ってももう何も話すことがない。さすがの私も諦めてお会計をすることにした。
再び駅に戻ると、彼はなんと新幹線で栃木に帰ると言う。
時間をお金で買うようになったんだな。すっかり社会人になった圭が少し知らない人に思えた。そして、そんなにも早く帰りたかったにも関わらずファミレスまで付き合ってくれたなんて、申し訳ない。

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私は案の定、直接「まだ圭が大好き。もう一度やり直したい」とは言えなかった。久々の再会で緊張したし、面と向かって告白して悲しい言葉を直に浴びるのが怖かったから。だから前もって手紙に書いてバッグに忍ばせていた。
「圭、渡したいものがある」と、改札に向かう彼に無印の茶色い封筒を渡した。振り向きながらそれを受け取る圭の表情は、その中に書かれていることがもう分かっているようだった。少し面倒だ、というあの表情がこぼれていた。

ああ、ダメだよねやっぱり、と思った。
しかし、その夜、横浜に帰りサークルの先輩に深夜まで飲みに付き合ってもらい、疲れてベッドに横たわる頃には「圭とやり直せるのでは?」という自信が湧いてきたものだから情けない。

圭からの連絡はまだない。あの手紙を見ただろうか。今、真剣に悩んで私との復縁について考えてくれているはず。だからまだ返事がないんだ。真剣に考えてくれている。いけるかも……!
圭が最近聴いていると言っていた曲を部屋の中で爆音で何度も何度も聴いて、眠りについた。

翌朝、まだ圭から連絡はなかった。
祈る思いで部屋の中で過ごしていると、昼頃LINEが来た。てっきり電話がかかってくるものだと思い込んでいたが。
メッセージを開く前に、画面の通知のところで結果は見えてしまった。
「戻るのはできない」
俺のこと考えてくれてありがとう、でも戻れない、というようなことが3行程度で書かれていた。
しかもLINE。
彼にとっての私が、色々分かった数秒だった。

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そこからが本当の私の失恋体験だった。
それまでは、新しい人と付き合っても、身体を重ねても、心のどこかに、いやど真ん中に圭がいた。いつか圭ともう一度付き合うからこれでいいんだと信じていた。だけど、再会からのあっけない失恋を機に、私は圭と本当の意味でお別れしなければならなくなった。もう会えなくて悲しいし、別れる選択をした自分が悔しいし、圭を失って怖かった。

大宮での再会から3年以上経った今、まだ圭を忘れられない。月に何度も圭とやり直す夢をみる。圭を思い出さない日は1日もない。
だけど私は、今同棲している大切な人と来月結婚する。圭と会ってもう一度アタックすることを認めてくれたあの彼だ。私の圭への気持ちをよく知っている彼だ。
圭を忘れられないけど、もし今圭に「やり直したい」と言われても、私は今の彼を選ぶ。これは本当。
圭になくて彼にあるもの。それは、「彼といる私が1番好き」と思える気持ちだ。