彼にあげた初めてのプレゼントは、お揃いのスマホケースだった。
付き合い出した当時は、正直そんなに好きじゃなかった。というか、他にうっすら好きな人がいた。しかし、その人は私に対して好意のかけらもなかった。それが苦しかった。そんな中、友達だった彼が私を好きだと言う噂を聞いて、その噂に流されてしまっのだ。
こんな始まり、自分でも最低だとわかっている。それでも自分の苦しさを解放させるには、この方法しか思いつかなかった。
彼との恋愛が長続きするように「願いを込めて」買ったスマホケース
彼の誕生日に私は、敢えて使用頻度の高いスマホケースを贈ることにした。しかも、お揃い。これは、私への戒めでもあった。簡単に別れられないおまじない。私の分まで買うことで、他の男への退路を絶った。
徐々に彼の好きなところが増えて、堂々と好きだと言えるようになった。付き合う先に見える“結婚”という未来も、当たり前に想像できる程にだ。しかし、所詮高校生の恋愛、壮大な恋は大学進学に伴う遠距離恋愛によって、あっけなく終わりを告げる。
理由もありがち。入学早々、連絡が激減して、私が耐えられなかった。スマホケースをあげた彼の誕生日から2年と半月、付き合ってから2年と3ヶ月後のことだ。彼は最後まで優しく、私のわがままを頷きながら受け入れてくれ、最後のお別れも私が乗る電車までいつものように送ってくれた。
ひとつ違うことは、帰り道に繋ごうとした手を振り払われたことくらい。当たり前か。もう他人になってしまったという事実が、悲しいくらいに目に見えた。私の打算的な思いから始まったあべこべな恋は、彼に飽きられた未練タラタラな私によって壊された。
彼と別れてからも「おまじない」のかかったスマホケースを使っていた
別れてから、何度か夢に見た。全て楽しいデートの夢で、私たちは沢山笑い合う。起きて「あ、別れてるんだった」って、悲しくなるまでが1セット。吹っ切れてると思っても、ふとした時に思い出す。もう永遠に出来ない触れ合いや、笑い合うことを想像しては涙する毎日。
喧嘩もしたことなかったから、蘇るのは楽しい思い出ばかり。あのスマホケースも悲しみに寄り添うように、いつも私の手の中にあった。
別れて何ヶ月か経った。私は関東での暮らしにも少し慣れ、サークルの深夜練習で東急東横線を使うような女になっていた。「そのスマホケースかわいいじゃん!買っちゃいなよ!」
と、サークルの練習前のショッピング、私が眺めていたスマホケースを見て友達が言った。
女子大学生なのに、男の子っぽい耐久性重視のスマホケースを使い続けるのもなぁと思っていた私は、衝動的にそれを買った。
もう…意味のないおまじないをかけ続ける必要はない。レジに並んでいる時、なぜかめちゃくちゃ寂しくなった。逃げたくなった。約3年つけているおまじないは、なくす時もパワーを使う。
おまじないを取り外す。あまりに軽くて、今まで背負っていたものがなくなった気がした。これで本当に立ち直らなきゃいけない、未練を捨てなきゃいけない。透明と金のスマホケースはあまりにも輝いていて、軽くて壊れそうで、今の私の心を象徴するようだった。
付き合い続けるために、そして吹っ切るための「スマホケース」だった
付き合い続ける理由にするために、スマホケースにしたんだよ。あなたは、最後まで気づいていなかったみたいだけど。それが吹っ切る理由になるなんて、思わなかったよ。
可愛いスマホケースにして、深夜の東横線に乗って都会に向かう。地元の人間には、取り戻せない都会の女になったよ? いいの? なんて、こんなことを考えているのは、私だけなのだろうけど。あなたはもう何にも思っていないだろうけど。
かわいい女になるから見ててね、連絡取っておけばよかったって思ってね、私もそろそろ前を向くからね、じゃあね。