あれはいつだったか。
一期一会で別れの場面があったり、映画でも琴線に触れると人目をはばからず号泣するという私が、一度だけ泣かなかったのは。
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話は前職のときに遡る。
新卒研修で仲良くなった同じ店舗に配属となったとある男子と、店舗が同じのときに交際をしていた。
交際したてのときに一度人事異動が発生し、初期配属の店舗とは1ヶ月半で別れを告げることになるのだが、2店舗目となる店舗にもまさかの同じ店舗という奇跡が起きたのであった。
そのときは、同じ店舗で一緒に働けるということに対してとても嬉しかったことを覚えているが、まさかこの恋が短命になるとはその時は全く考えもしていなかった。
きっかけは2店舗目での勤務初日後、仕事上の些細なことで喧嘩をしてしまったがために、交際して丸1ヶ月を前に破局の危機に陥ったことだった。
そのときは結果的にLINEでその危機を免れたが、その時だけ、好きな曲を聴きながら通勤していたので泣きたかったけど、ぐっと涙を堪えた記憶がある。
しかしながら些細な生活習慣の違いだったり、仕事に対する価値観のすれ違いで交際4ヶ月でその彼とは破局してしまった。
そのときの切り出し方も、思えば最悪な別れ方だったと思う。
「面白いこと言ってもいい?別れよう」
突然の一言、そして先輩スタッフが目の前にいるときに放たれた言葉に頭が真っ白になった。
「考えさせて」
そう答えるのが精一杯だった。
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半月考えて別れるという選択を私もして、その報告の電話をしたときに直接理由を聴いてみたとき、「お前と付き合うメリットを感じなくなったから別れたくなった」と言われたときは正直ショックでしかなかったが、そのときばかりは涙が1ミリも出る気配がなかった。
もちろん、別れに至るまでに当然私に非があったのはわかる。
それでも、だ。
今までの恋愛では、自分に非のある部分があっても好きだったということに変わりなかったので人知れず号泣していたあの私が、全然泣かなかったのである。
自分自身も珍しいと感じた。
その後すぐと言ってもいいくらいに私自身の転勤辞令が下ったので、顔を合わせなくて済んだと思ったのだが、その1ヶ月後にまさか同じ転勤先で仕事をすることになるとはまったく考えておらず、まさに鳩に豆鉄砲を食らったような衝撃を受けたのはまた別のお話……。
そしてその最悪な別れから1年と少し経った頃だろうか。
当時配属先が九州だった私はたまたま冬休みをいただいて関東に帰ることができ、元職場に顔を出せる機会があった。
以前の配属先の同期で親友がいたので、話をする機会をもらえて談笑をしていたところ、ついその元カレの名前がLINEトークの一番上にあることに気づいた。そのときは「最近仲良い」という言葉を鵜呑みにしていたのだが、あとあと別ルートを辿って聞けば、その時点ですでに2人は付き合っていたというのであるから驚きである。
そのときも思えばショックで泣くようなことはなかったような気がする。
「まぁ、あの2人が幸せだったらいいんじゃないの?」というくらいで、自分でも驚くほど気持ちの分別というのはあっさりしていた。
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今、自分自身は転勤続きで、前職の同じ店舗内で今でも交際を続けている最も大事な相手ができたものの、病気退職して地元に帰ってきてしまったので、彼とは絶賛遠距離恋愛中だ。
でもきっと件の元カレは、近況に変わりなければその私の親友とも呼べる元同期の彼女の隣に今もいることだろう。
今のパートナー相手にはたくさん泣くことがあるというのに、全く泣けなかった元カレとの別れ。
きっとお互いが望んで選んだ道であり、進んだ道だから、泣くということはなかったのだろう。
それはきっと、今まで別れの都度泣きっぱなしだった私との決別、そして彼との完全な決別を意味しているのだと思う。
私は今選び、進んでいる道を信じて歩み続ける。
だから、あの時泣かなかった選択は間違っていなかったと思いたい。