つい先日、失恋しました。辛い時に欲しい言葉をくれた人を好きになり、勝手に浮かれていたら、その人に彼女ができ、恋心はたったの2ヶ月で強制終了しました。
思い返すと悲しいやら恥ずかしいやら情けないやらで、胸がずっしりと重くなってきます。
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失恋すると「あんな男なんて知らねえ!」とカラオケで友人と肩組んで熱唱したり、泣きながら電話で愚痴を吐露したり、友人に話を聞いてもらいがちですが、私はこういったことができない人間でした。
自分がどうしたいかよりも相手が自分をどう思うかが気になってしまう私は、友人を呼び出して自分の失恋話を聞かせるなんてどうしてもできません。と書くと、「相手本位の子なんだな」「気遣う子なんだな」と思われそうですが、ごりごりの真逆。私は相手に「私をこういう人だと思って欲しい」願望の強い自分本位の最たるタイプなんです。
友人に恋に惑わされる人だと思われたくない。「もっと大人で余裕のある人だと思われたいから」。これが私が友人に失恋した話をできない理由でした。
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私がこんな面倒臭い性格になってしまった理由の一つに、転勤族だったことが大きく関係しているような気がします。
親の転勤に子の転校はつきもので、これがかなりエネルギーを使うもので。何度経験しても「新しい学校に馴染めるか」という息が詰まるような不安に慣れることはありませんでした。
転校初日に重要なことは自己紹介なんかではなくて、そのクラスの人間関係の大体を把握すること。空いてるポジションを探してそこへ滑り込むにふさわしい言動をし、自分のキャラクターを作り上げる。勉強が得意な子がウケるなら勉強を頑張ったし、おもしろい子がウケるなら笑いを取ることに努める。
こういった経験を重ねるにつれ、私は「自分がこうしたい」ではなく「相手にこう思われたい」ベースで人間関係を構築するようになりました。
自分がそう思ってるだけかもしれないけど、学生時代は割と狙い通り滑り込むことに成功してしまっていたので、そんな性格のまま大人なってしまったんだと思います。
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ひずみが出始めたのは社会人になってから。
コロナを機に増えた家でぼうっと天井を眺める時間が、もともと考えや計算が多い私にあまりに膨れ上がった理想像を確立させてしまいました。
「人に迷惑をかけない寡黙な努力家になろう」
理想を定めるのはいいことだと思います。ただそれに向けてコツコツ1人で努力できる神様みたいな人だったらよかったけれど、私は自己評価ではなく他人からの評価を気にする人間なので、理想と他人からの印象にギャップが生じると、自分が駄目人間に思えて途方も無いショックに見舞われしまっていたのです。
すると私は段々、人の目に写る自分と理想のギャップを指摘されたくなくて、誰かと会うことを控え1人で溜め込むようになりました。文字に起こすと自意識過剰すぎて笑えてくるけれど本当の話です。
とはいえ高校の時以来開いてなかった日記帳を再開し、愚痴は人に言わず紙に書くようにすると、強く優しい人間になれたようで嬉しかったし、成長したような気分になれてました。
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けれど、他人に迷惑をかけたくなくて、もとい他人からプラスの感情を抱かれたくて歯痒い日々に1人耐えていたはずだったのに、そのせいで心が擦り減っていた私は、友人からの仕事や恋愛の愚痴をきいてあげることが出来なくなっていました。私が1人で乗り越えた問題に友達が諦めている姿を見ると、叱ってしまいたくなるようになったのです。
喉まで出かけた友人への心無い言葉に何度自己嫌悪したかわかりません。強くなった気がしていたけれど気がしていただけで、私は自分に厳しくいると人にも厳しくなってしまう弱い人間のままでした。
そんなあり得ないくらい情けない状況にいる時に、冒頭失恋した相手と出会いました。私の「悩みを人に言えない」を見抜いた彼は「借りを作れば?」と短いアドバイスをくれました。
要は自分が相手にこれだけしてあげたのだから、自分の悩みくらい話してもいいだろうという環境を作るのはどうかと。
そんなことだったのかと、全身から力が抜けていくような気持ちでした。彼の言葉で、私は人とは人に迷惑をかけた自覚があるからこそ人に優しくなれるのだと気づくことができたのです。
同時に、私はただ漠然といい人になろうと自分の理想しか見ていませんでしたが、そうではなくて、見るべきだったのは目の前の相手だったのだと、二十何年生きてやっと気づくことができました。
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私は誰にも迷惑をかけず寡黙に生きて賞賛を得られるほど、できた人間ではありませんでした。でもそれでいいんだと初めて気がつきました。他人に迷惑をかけてしまったときは、その何倍の迷惑を受け入れてあげられたら良いのだと。そうやって人は人と関係を深めて寛大になっていくんだなと。ハンカチ必須の事実でした。
そんな大事なことに気づかせてくれた人に振られたと、翌日会った友人に意を決して話してみると大爆笑されました(何故?)。予想外の反応に戸惑ったけれど心が軽くなっていくのをひしと感じて、更に男の人紹介するよーと言って貰えて、これまでこういったチャンスも逃してきたのかもしれないなぁと思ったり。
とにかくその友人には申し訳なさより感謝が勝ちました。本当にありがたい。優しくしてもらって優しさを覚えていくのなら、人間弱い方が得かもしれません。
もし、今度友人が同棲中の彼氏と喧嘩したらうちに呼んで、次の日仕事でも夜中まで友人の話を聞きたいと思います。