7月下旬のとある土曜日、時間は16時05分。
1LDKの部屋はクーラーがほんのり効いているけど、午前中は部屋の掃除をしたり溜まった洗濯物を干したりで部屋中を動き回ったせいか、じんわり汗をかいてしまっている。

よし、今日は早めにお風呂に入っちゃおう。
平日はどうしても時間が足りなくてシャワーだけになってしまうけど、仕事が休みである週末は夏でも冬でも関係なく、出来るだけお湯をためて湯船につかる。それくらい私はお風呂に入るのが大好きだ。

◎          ◎

汗ばんだTシャツを脱ぎ捨てて、私は足早に浴室に向かう。
そして誰もいないからキャミソール姿でひとり、入浴剤のストックが入ったボックスをがさごそ漁る。
重炭酸が入った、疲れが取れそうな柑橘系のバスタブレット。
かわいい女の子のイラストとネーミングに惹かれて購入した花の香りのバスソルト。
お世話になった上司からいただいた、開けるのがもったいない瓶入りのバスキューブ。
入った後はお肌がしっとりもちもちになるお米が入った薬用の入浴剤。
うーん、今日はどれにしようか……。悩むなぁ。
たくさん掃除して疲れたから重炭酸にしようか。あ、でも花の香りにも癒されたいし……。
数種類の入浴剤のパッケージ裏を見比べて、今日の自分にぴったりの相棒を探す。
結局5分ほど悩んだ結果、今日は花の香りがするバスソルトの湯にすることに決めた。

入浴前にごしごし、と湯船や浴室を念入りにスポンジで掃除していく。
午前中も散々掃除をしたけど、掃除の後にはゆっくり湯船でくつろげると思うと、気分はるんるん。鼻歌交じりにスポンジを滑らせた。

◎          ◎

あっという間に掃除を終え、髪や身体を洗いながらお湯をためていく。
私は自分の髪や身体を洗う時間も、無心で自分と向き合えている気がして好きだ。
もう少ししたら髪切りに行こうかな、とか。最近はずっと髪を染めてるから傷んできてないだろうか、とか、自分の毛根を気にかけながら頭皮を優しくマッサージしたり、グレープフルーツの香りがするお気に入りのボディーソープで自分の身体を丁寧に洗ったりして、自分をひたすらに癒して、自分で自分を労う。

そうこうしているうちにあっという間にお湯がたまった。
入浴剤のパウチをぺりぺりと開けて、湯船にさらさらと振りかけていく。
透明だったお湯がじんわりと優しい桃色に染まっていった。
右足から湯船にちゃぷり、とつけてゆっくりお湯に浸かっていく。
夏場だからぬるめのお湯だけど、全身を柔らかいお湯が包み込んでくれて、それだけで心地いい。

ふう、と大きく息を吐いて目をつむる。
どうしても湯船につかって目をつむると、いつもより少しだけ家族のことや仕事のこと、まだ見えない将来のことまで色々なことをつい、考え込んでしまう。
この先の私の未来、どうなっているんだろう。
29歳になったからなのか、最近はぼんやりと将来に対しての漠然とした不安が襲ってくる。

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そんな時は湯船につかりながら、YouTubeでお気に入りのアーティストの曲を流しながらひとりカラオケを開催したり(エコーがかかるし、私だけだから誰も気にしなくていいから平気!笑)、面白い動画を見てけらけら笑ったりしたりして、不安な気持ちを乗り越える。
すごく不安だけど、まだ分からない先のことなんて考えても仕方ないし、いま私はお風呂にゆっくり浸かって自分のことを労えてる。とりあえずそれだけでいっか、と思うようにした。
お風呂場で生まれた不安な気持ちは、お風呂場の外には持ち出さない。

お風呂から上がると、時計は17時30分を過ぎていた。
自分の身体と心にゆっくり向き合って、自分のことを労うことができるこの時間がいまの私にとってとても大事な時間になっている。これからもこの時間は大切にしていきたい。
湯船から上がってすっかりぽかぽか温まった私は冷たいものが食べたくなった。
あ、冷凍庫に冷凍ミカンがあるから食べちゃおう、たまにはいいよねと自分に言い聞かせて台所に向かった。