友達以上恋人未満、つまり「サム」という関係の男性がいた。
夢を叶えるために一流の大学に通っている私に対し、彼は高卒で定職につかず、アルバイトを転々としていた。生活リズムも真逆で、私が目覚める頃に彼は眠りにつく。まるでお互い地球の反対側に住んでいるように思えた。
さらに、話も合わなかった。私は1つの話題に対して深く掘り下げたいタイプだが、彼は思い付いた話題を次々に出してくる。行き当たりばったりで、意見がコロコロ変わるような、浅い人だった。元カレが1人しかいない慎重派な私に対し、彼の経験人数は両手で数えきれないほど多く、一言で表すと遊び人だった。

お互い真逆のタイプだったが、かえってそれが新鮮で、一緒にいてとても楽しかった。とても優しく、明るいところに惹かれた。なにより、彼のルックスが私のどタイプだった。じっと私の目を見つめてきたり、軽くボディータッチをしてくる彼の態度から、私たちは両想いなんだろうな、と思っていた。

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数回目のデートで、私たちは軽いノリでラブホテルに入った。
最初は並んで座って映画を見ていた。しかし突然、彼は私をベッドに連れ込もうとした。もちろん断った。なぜなら、付き合う前に一度行為をしてしまうと、恋愛対象から外れ、これから先付き合える可能性がなくなると思ったからだ。
しかし、断っても断っても、彼はあの手この手で何度も誘ってきた。あまりにもしつこかったので、思わず「付き合う前に体の関係を持ったら、恋愛対象から外れるでしょ、好きだからできない」と不本意な告白をしてしまった。
彼から返ってきた言葉は意外な言葉だった。
「俺は好きではない」

両想いだと思っていた私は、大きなショックを受けた。
彼には他に好きな人がいるとのことだった。つまり私は恋愛対象としてではなく、遊びの対象として見られていた。好きだったのは私だけだったんだ、と考えると涙が溢れそうになった。

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冷静に考えると、デートはいつも私から誘っていた。このままデートに誘い続ければ、私の好意が利用され、都合の良い関係になってしまいそうだと思った。
もう二度と会わないようにしよう、と相手に告げようとも考えたが、今までの楽しい時間が否定されるような気がした。
悩んだ末、この中途半端な関係を自然消滅させる、という方法が1番良いと思った。それから私はLINEの返信頻度を減らし、デートに誘わなくなった。案の定、向こうからデートの誘いは来なかった。彼にとって私はどうでもいい存在だったんだということを思い知らされた。

そして彼のことに意識が向かないように、大学の勉強に打ち込んだ。そうしていくうちに1日の中で彼のことを頭に思い浮かべる時間は減っていった。
時間が経つにつれ、なにもかも真逆で気が合わない私たちは上手くいかなくて当然だよな、とやっと理解出来るようになった。この経験から、恋愛において時間は最高の薬になる、ということを学んだ。