三年半。
人生においてその時間というのは、非常に刹那的だと感じる人は多くいるだろう。
では「大学時代の」という修飾がついたらどうだろう。
それらの時間が一気に価値あるものへと変化する印象を持つのではないだろうか。

大学時代の全てと言っても過言ではない時間。一生に一度の時間。
その時間、私は一人の男に夢中になっていた。
時間が過ぎていくほどに、加速度的に美化される彼の姿。
その姿が脳裏をよぎるたびに、あの決断が間違いではなかったと自分に言い聞かせる。
今までの人生における最初で唯一の彼氏とのストーリー。

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彼との出会いは大学の新入生歓迎会。先輩だった彼の第一印象は「チャラい」。
この日だけの付き合いかもと思っていたあたり、印象はお世辞にもいいものではなかった。
そして次の日、私のスーツフェチが開花したと同時に、印象はひっくり返った。
まさかの同じ学科で、かつスーツ姿で決めていた彼に二目惚れしてしまったのだ。
偶然にも彼と仲良くなった私はLINEを交換し、約半年、毎日LINEを続けた。
そろそろ想うだけもしんどくなってきた頃、彼から告白され、大学一年の秋、お付き合いを始めることになった。

初めての彼氏、しかも付き合う前から大好きだった彼が彼氏になった。
その状況で浮かれない方が無理なのは明らかで、私は彼にどっぷりハマっていった。
大学四年だった彼は就職で地元の徳島へと引っ越すことが確定していたため、卒業までの半年は半同棲のような生活を送り、泣きながら彼が旅立つのも見送ったことを今でも覚えている。そして大学二年になった私は約三年もの間、遠距離恋愛というものを体験した。

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この三年を通して、後の私は恋愛がいかに恐ろしく盲目になり得るものであるかを知った。
毎月片道五時間かけて徳島まで会いに行き、彼の家でほとんどを過ごす日々。
彼が仕事の昼間は彼の家にあるゲームと夜ご飯を作ることくらい。
冷静に苦笑いするしかない、そんな状況でも私はよかった。彼が好きだったのだ。
もちろん長期休みは旅行に行ったり、休みが被れば出かけたりもした。
会えない日は電話好きの私に毎日付き合ってテレビ電話してくれた彼。
彼から愛情を貰っていると感じた時もあった。

しかしいつからか、黒い染みのようなものが私の心に広がり始めていった。
「仕事が忙しいのはわかる、けれどなんで私ばかり会いにいくんだろう」
「私ばかりが好きなのかな、彼に与えているものと同じくらい貰っている気がしない」
欲張りになっていると思いつつ、その違和感を拭うことはできなかった。
そして私の心のバランスは徐々に狂い始めていった。
会えば好き、会わない時は狂ったように怒りと寂しさが訪れ自問自答する日々。
それでも彼が好きだった私は、自らこの関係を終わらせることはできずにいた。

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「今度実家に一緒に行かない?」
「あ、うん。機会があればね」
大学四年の冬、正月を共にしていた彼から放たれた一言。
言葉を濁して返事をした私とは裏腹に、気にも留めていない様子の彼だったが、この言葉が決定打となり、私は彼との別れの準備を始めたのだった。
別居婚という言葉があるくらい、現代において結婚というものは多様化してきている。
とはいうものの、互いの人生を背負う結婚というものに対して、当時の私は彼となら、という決断もできなければ未来も見えなかった。
数ヶ月後、私は彼との三年半の関係を自ら終わらせた。桜が綺麗に咲く三月のことだった。

別れて一年が経った時、彼が結婚したことを人づてに聞いた。
あんなに通っていた彼の住む街で、彼が別の人と幸せに過ごしているかと思うと、少しだけ心臓が掴まれる感覚に陥った。
しかし、私は私の人生を前を向いて歩いていかねばならないと、自らを鼓舞する。
酸いも甘いも体験したあの街での出来事も、やがてセピア色に変わっていくと信じて。