新入社員の頃、私は7歳年上の男性社員に恋をした。
入社してまだ知り合いも少ない時期。心細い気持ちでいた私に彼が気さくに声をかけてくれ、時々話すようになったことがきっかけだった。
気さくな彼と他愛ない話をする時間はほっとして、会社での緊張感を和らげるひとときだった。
彼が別の部署で直接仕事を教わることがなかったのも、話しやすさの要因だったと思う。

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彼への恋心を自覚したのは、彼から昼休みのランチに誘われた日。男性と食事をするのは初めての経験。緊張して、私の胸の鼓動は治まらなくなった。
背が高く、スーツが似合う彼のことが、とても格好よく見えた。

自分の気持ちに気付いた私は、落ち着かない日々を過ごすようになった。
毎日彼の姿を探し、少しでも話ができると幸せな気持ちでいっぱいになった。一方、姿を見かけない日が続けば寂しくてたまらず、彼がどうしているのか気になった。

思い悩み、私は入社以来親しくしてくれている先輩に相談した。彼を好きになってしまい、悩んでいることを伝えると、先輩は協力すると励ましてくれた。

ちょうどお花見の時期、会社の近くにはお花見スポットとして有名な公園がある。
先輩に励まされた私は、思い切って彼をお花見に誘うことにした。
「もしよかったら一緒にお花見に行きませんか」
勇気を出して送ったラインメッセージ。
すぐに既読になり、5分もたたないうちに返事が来た。
「いいね。一緒に行こうか。」
OKの返事に私は天にも昇るほどうれしかった。

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当日、私は彼と二人で公園を訪れ、桜を見た。好きな人と見る桜は今までで一番きれいで、彼と分け合ってたこ焼きを食べる幸せを嚙み締めた。
終業後の数時間。あっという間だったが、この日が恋をした私の一番幸せな日だったと思う。

その後は先輩の協力もあり、彼を含めみんなで遊びに行く機会が1、2度あったが、それ以外は時々立ち話や、ラインのやり取りをするだけで彼との関係に進展はなかった。
「彼は私のことをどう思っているのだろう」
「私の気持ちに気付いていないのかな」
「真面目そうだし、恋心には疎いのかもしれない」

不安な気持ちを先輩に聞いてもらうと、先輩から提案があった。「来月は彼の誕生日。思い切って遊びに誘って告白したらどうか」
「お花見も行っているのだから、〇〇ちゃんのことは悪く思ってないはずだよ」という言葉にも励まされ、私は再び勇気を出すことにした。

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甘いものが好きな彼の誕生日祝いに、パフェの人気なお店でご馳走したい。思いきって誘うと、彼からは「ありがとう。嬉しいよ。楽しみにしているね」という返事。休日のためパフェだけでなく、一日を一緒に過ごすこととなった。
私は喜びと同時に告白を前に大きな緊張感を感じていた。

約束の日、始めに訪れたのはミュージアムのガイドツアー。ツアー直前、彼が私の手をそっと握った。驚いて彼の方を伺うと、彼は微笑んでいる。好きな人に手を握られて嬉しくないはずがない。私達は手をつないだまま、ツアーを終えた。

メインのパフェのお店でも、彼から驚きの言動、「『あーん』って食べさせてよ」。
ためらいながらも、スプーンで彼の口にパフェを運ぶと、彼は「ありがと。おいしい」と満足そうにしていた。とても恥ずかしかったが、彼が喜んでくれて嬉しかった。
彼の真面目な印象は変わり始めていたが、それでも彼が好きで、彼とのデートを心から楽しんでいた。

最後に訪れたカラオケ店。二人きりの空間で私は彼に思いを告げた。「ずっと前から好きでした」
「気付いてたよ。伝えてくれて嬉しい」「でも、ごめんね。彼氏にはなれないな」
彼は私のことを好きではない。ふられてしまって悲しかったが、私は彼の言葉を受け止めようと思った。

次の瞬間、信じられないことが起こった。彼が私の唇にキスをしたのだ。
何が起きたのかわからず困惑している私をよそに、彼は微笑んだまま。さらに私の服の中に手を入れて胸を触り始めた。彼が好きな私に拒むことはできなかった。
帰り際、彼は「また遊ぼうね」と言って去っていった。

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そんなことをされても、私は彼のことを嫌いになれなかった。
月に一度程遊びに行っては、カラオケなどでキスをされたり、体を触られる。こんな関係はいけないとわかっていた。けれど、「嫌われていないなら、いつか好きになってくれるかもしれない」「彼女になれるかもしれない」という淡い期待が消えずに、彼と会うことを止められずにいた。

ある日のこと。
「ねえ、しない」
その言葉の意味することはわかっていた。私が答えられずにいると、「ホテル行こうよ」と彼はさらに誘ってきた。
私は初めてを、自分のことを好きでいてくれる人としたかった。彼が私を好きではないことは分かっていた。
溢れそうになる涙を必死にこらえて首を振り続ける私に、彼は諦めたようだった。

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この日、私は彼と離れる決意をした。翌日から、会社でなるべく彼と顔を合わせないように努め、連絡を取らないよう、定期的に送っていたラインを我慢した。
同じ会社のため、どうしても顔を合わせる機会はある。とても辛かったが忘れるように頑張った。時間がかかったが心の傷は癒え、私には彼氏ができた。

大事な初めてを、自分のことをちゃんと好きになってくれた人のためにとっておいた自分。あの日、彼の前で涙を見せなかった自分を誇りに思う。