1年半ぶりに元彼から連絡が来た。別れた後も数回会っていた。
「また付き合う気はない」と宣言されていたけど、「付き合えなくても、一緒に過ごせるだけで幸せ」と思い込みたかった自分の気持ちにも限界は来て、自分から「もう会わない」と伝えた。
彼からの連絡は「貸していたものを返して欲しい」という、別れた2人にありがちな用件だった。
人の気持ちは移り変わるものだ。あんなに好きだったのに
あたしが出した「もう会わない」という結論は、自分にとってどれほどの意味があったのだろうか。
「もう会わない」と伝えた日。たくさん泣いた。限りある未来の時間を、将来も何もない人と過ごすなんて、そんな悲しいことってない、そう思った。自分を大事にしなくっちゃ。終わりにするのだ。
それから1年半。彼から連絡が来た。前までだったら心待ちにしていたはずだったが、あの頃のような、湧き上がる熱情、執着に近い恋心、そんなものは感じなかった。
それはそうだ、「時間が解決してくれる」と人はよく言う。まさに今、それが証明されている。時間が経てば、溶けて消えていく。だって、1年半って結構長い。
あたしの家の最寄り駅で会うことになった。仕事帰りの夜21時。
あんなに恋しくて、大好きでたまらなかったけど、もう何とも思わない。好きの反対は嫌いじゃなくて無関心だって、これもよく言われてる。あんなに好きだったのに。人の気持ちは移り変わるものだ。
電車を降り、駅の改札を出る。小さな駅でこじんまりしているから、彼が駅前のベンチに腰掛けて待っている姿はすぐに目に入ってきた。街灯が少ない駅前のベンチで、顔ははっきりと見えなかったけど、すぐに彼だとわかった。
「久しぶり」と、お互い言葉を交わす。
「はい、これ」と、彼に長らく借りていたものが入っている紙袋を渡す。
近況を伺う短い会話の後、「じゃあ、元気で」と言い残し、彼は私がさっき通った改札へと向かって歩いて行った。この間、5分もなかった。
明日も仕事は朝9時からある。早く家に帰って、休もう。
あの恋は、これで完全に過ぎ去った。さようなら、あたしの恋!
と、思えるような人間になりたかった。
我慢できなくなって、声を出してこどもみたいにわぁわぁ泣いた
夜9時を過ぎていた。夜遅い時間はいつも心配してくれて家まで送ってくれる人だった。だから今日も送ってくれると無意識に思ってた、ああ、何を思い上がっていたのだろう。
自ら彼との時間を手放したことを忘れたの?送ってくれるわけないじゃない。
違う、それよりももっと重大なことは、会った瞬間、彼の存在を捉えた瞬間、わけのわからない感情で頭も心もいっぱいになったことだ。
自分が自分で信じられなかった。
だって、自分から遠ざけた。未来がないなら、意味がないと思った。意味がないものは、存在意義もない。なのに、なんで、あたしは今、涙を堪えて歩いているの?
早足で、涙が溢れないように、家路を急いだ。わけのわからないこの感情を、口から吐き出したい感情を、飲み込んだ。
わかりたくなかった、知りたくなかった、だから必死に堪えて、出てこないように、出るな、出てこないで。
玄関のドアを開け、靴を脱ぎ、部屋への扉を開け、そのままベッドになだれ込む。
大好きなあたしの部屋、安全で、危険も何もない空間で、我慢ができなくなって、声を出してこどもみたいにわぁわぁ泣いた。
気付きたくなくて、なかったことにしたくて、蓋をしていた
わけのわからないものじゃない、ずっとずっと一緒だった、気付きたくなくて、なかったことにしたかった。だから蓋をしていただけのこと。
この気持ちは純粋で綺麗なものではないかもしれない、執着しているだけかもしれない、
でもそれもわからない。ただ、このごちゃごちゃして、切なくて、会いたいと、一緒にいたいと思うこの感情を、あたしは何と呼ぶのかを知っている。
あの夜があったから、彼とまた寄りを戻して、幸せに暮らしましたとさ、なんてハッピーエンドにはなっていない。
でも、あの夜があったから、あたしはあたしの気持ちを大事にしようと思えた、というよりかは、諦めに近いのだけれど。
あたしが出した「もう会わない」という結論は、自分にとってどれほどの意味があったのだろうか。
意味なんて、なかった、なくてもいい。自分の気持ちに正直に生きることしかできない。
なんて不器用なんだ。いつか本当にこの気持ちとお別れする時がくるかもしれないし、こないかもしれない。
仕方がない、それはそういうものと諦めて、しばらくはこの感情と一緒に過ごそうと思う。