「疾風に勁草を知る」
私が座右の銘として短大生の頃からずっとお守りにしている大好きな言葉だ。
この言葉は「激しい風が吹いてはじめて丈夫な草が見分けられる。苦難にあってはじめて、その人の節操の堅さや意志の強さがわかるということ(後漢書・王覇伝)」(デジタル大辞泉)という意味だ。

「困難に直面してはじめて、その人の意志の強さがわかる」という意味を持つこの言葉に出合ったのは短大2年生の頃だった。
その頃の私の生活は、昼間にアルバイトを8時間続けた後に夕方短大へ通い、自宅へ帰宅するのは大体23時頃。学業や学費を稼ぐためのバイトの他にも週末にはボランティア活動をしたり、短大の自治会で会長を推薦されて務めることになったり、自分でどれもやることを決めたものの、全部投げ出してしまいたくなるような衝動に駆られることが度々あった。
そんな私がゼミの研究のために図書館で借りた本に偶然載っていたこの言葉。借りた本の名前は思い出せないけど、この言葉に「自分で決めたんだから投げ出さずに頑張れ!」と言われているような気がして、私はぐっと踏みとどまってどれも投げ出さずに最後まで続けることができた。

そのおかげか首席で短大を卒業できたし、会長の職務も全うすることが出来た。ゼミの自己紹介文に「疾風に勁草を知る」という言葉を書くくらい、私にとっての努力のための原動力でありお守りだったから、どれも投げ出さずに努力したおかげでどんどん結果は実り、とても充実した短大生活だった。

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短大卒業後、私は社会人になった。
入社後最初の配属先は職場環境も良好だったし、尊敬できる上司に出会って、これから先も私はこの会社で一生懸命頑張っていくんだろうとぼんやり思っていた。毎日新しく覚える仕事がとにかく楽しくて、早く先輩に追いつきたくて、社会人1年目の私はそれは大いに熱意に満ち溢れていた。
だけど、次の配属先で私を待ち受けていたのは、お局様をはじめとした同性の先輩達からのパワハラだった。
私の方から明るく挨拶しても無視されて、初めて目にする業務内容を質問しても答えてはくれない。自分専用のロッカーも与えてもらえず、先輩のミスは私のミスとして当たり前のように処理されることもしばしばあった。

「こんなことで負けるもんか!」と、毎日パワハラに屈せず、笑顔を何とか作って出社していた私だったけど、油断するとふとした瞬間、うつむいた時に視界が涙でぼやけてしまう。
だけど、ここで今泣いてしまったら自分がなんだか負けた気がして。職場では、あの先輩たちの前では、絶対に泣かないと私は心に決めた。

1日の仕事を終えて自宅へ向かうバスの車内で「疾風に勁草を知る」の言葉を頭の中で反芻し、これはきっと乗り越えられる困難だと自分に言い聞かせた。だけど、頑張って息を止めてみても、目をぎゅっと閉じても涙を堪えきれなくて、ひっそり静かにひとりで涙を流しながら帰った。

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新しい配属先に赴任してから約半年が経過した頃、主犯格だったお局様が別部署に異動することをきっかけに私に対する先輩達からの無視も、当たり前にあったミスのなすり付けも少しずつ無くなっていった。あんなに長いと思った半年間は初めてだった。
そこからは時間をかけながらその職場内で自分の居場所を少しずつ作っていき、1年後には居場所もしっかりと確立した上で、自分らしく仕事を続けることができた。

あの時からあっという間に約7年が経った。
今の私は当時勤めていた職場を退職し、転職したけど、7年経った今でも鮮明に思い出してしまうくらい私にはトラウマが残っている。

あの時は一生懸命泣くことを堪えながら働いた私だったけど、
「もし我慢せずに、わんわんと声を出しながら私へパワハラをしていた先輩たちの前で泣いていたら、どうだっただろう?」
「あの時我慢せずに涙を流しながらいじめられている事実を訴えていたら、何かが変わっていた?」
「7年経った今でもこんなにトラウマとして私の心に残ることは無かった?」
と、様々な“もし”を考えてしまう時もある。

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だけど、7年前の私の「今泣いてしまったら自分がなんだか負けた気がして」というその気持ちを今の29歳の私は大切にしてあげたい。きっとその泣かないと決めた気持ちがあったからこそ、反骨心が生まれて仕事も試験勉強も人一倍頑張れたと思うから。

今でも大きな壁にぶち当たって上手くいかない時、「疾風に勁草を知る」の言葉が私を鼓舞して、前に進むことをひるみそうになる私の背中を押してくれる。やっぱりこの言葉は大好きだし、お守りのような言葉だ。
だけど、たまには我慢せずに泣いてもいいんだよと、毎日と必死で戦う強い自分、泣いてしまいそうになる弱い自分、どんな自分もどっしりと温かく受け入れるような気持ちで毎日を過ごしていきたいと思う。だから、泣くことを我慢した私のことも、堪えきれずに涙を流した私のことも全部受け入れてまた一歩前に進んでいこう。