今から約10年前。当時中学3年生の私は、クラスで「ぼっち」だった。グループに属していなくて、休み時間や授業の移動時間などで行動を共にするクラスメートがいなかった。
好んでぼっちでいた訳ではなかった。友人が少なかった私は、一緒のグループになれるような親しいクラスメートを見つけられなかった。勇気を出して自分から誰かに声をかければグループに入れるかもしれないと思ったけれど、拒絶されるのが怖くて出来なかった。
実は、私は中学に入学してから対人恐怖症のような状態になっていた。運動部に入部していたのだが、トロい私は体育会系の雰囲気が全く合わなかった。いじめられないように常にビクビクしているうちに、そうなってしまった。
◎ ◎
当時はひとりでいる自分が他のクラスメートからどう見られているか、常に気になっていた。自分が惨めで、寂しくて、一日一日が地獄のような学校生活だった。「3月まで耐えれば終わる」と自分に言い聞かせて過ごしていた。「耐えきれない場合は死んでしまえばいい」とその時は本気で思っていた。
そんなある日。夏休み明けぐらいだったと思う。席替えがあった。私の前の席になった男子が、
「よろしく」
と話しかけてきた。そして私のノートを見て、
「字、綺麗だね」
と言った。
「習字とかやってるの?」
と彼は聞いてきた。
昔から習字を習っていた私は、
「うん」
と答えた。彼は、自分の親が習字の先生なのだという話をした。
それからその男子は、班活動の時や授業の合間の時間に、よく話しかけてくるようになった。それをきっかけに同じ班の女子(4人の班で彼以外の2人は女子だった)とも話す機会が増えた。
◎ ◎
読んでた本を貸してほしいと言われたから貸した。返す時に感想を言ってくれた。
好きな音楽の話をした。翌日、私が好きだと言った曲をYouTubeで聞いてみたと話してきた。
彼は私にだけ特別よく話しかけていたという訳ではない。男女問わず誰とでも仲が良かった。ただ、私にここまで話しかけてくる人は彼以外にいなかった。
相変わらず私はぼっちのままだったけれど、いつからか、彼と会って話すことが私の唯一の楽しみになっていた。
席替えからしばらく経った頃、彼に、
「もっとみんなとしゃべりなよ」
と言われた。
「小学校の時は明るかったんでしょ、みんな言ってるよ」
とも言われた。
ドキッとした。そんな事を私に言ってくるのは勿論彼が初めてだった。
明るくフレンドリーな彼にとって、ひとりでいる私のことは不思議だったのだろうか。
彼は余計なことを気にせず、思ったことを素直に言える人であった。
ある時、彼と私は誕生日が一緒だということが判明した。彼は、
「俺と倉田さんは運命の赤い糸で結ばれてるんだね」
と笑いながら言った。さすがにドキドキしたけど、それから彼は私ではない他の女子と付き合い始めた。「運命の赤い糸」という言葉は、何気ない冗談だったようだ。それとも少し天然な彼は、意味をよくわからずにこの言葉を使ったのだろうか。
◎ ◎
季節は冬になった。高校受験が近付いていた。私の志望校は他の高校より少し早い時期に受験があることになっていた。彼の志望校は私の第二志望の所だった。彼は、
「まあ、落ちても俺らと同じ学校に行けるもんね」
と言っていた。
班のメンバーと年賀状を出し合う約束をした。私は最初、彼だけには年賀状を自分から出さなかった。彼は約束を忘れてしまうのではないかと思っていた。
でも彼からの年賀状は私のもとに届いた。私は生まれて初めて同級生の男子から年賀状をもらった。「受験頑張ってね」とお世辞にも綺麗とはいえない字で書いてあった。
その後、私は第一志望校に合格して、彼とは違う高校に行くことになった。
卒業して以降、彼とは一度も話していない。
私の中学3年生は地獄のまま終わるはずだった。だけど彼のおかげで人の温かさに触れることができた。誰に対しても分け隔てなく接することが自然に出来る彼の人間性は素敵だと思うし、見習いたい。
あの時は感謝の言葉を伝えられなかった。覚えていないだろうけど、本当にありがとう。