元彼に買い物に誘われた。今年2回目だった。
互いに別の道を歩み始めて8年が過ぎた。もうただの友だち。
そうやって言い聞かせていたのに、触れてしまった、元彼の手。
そっと触れた手は、私が恋した手のままだった。
会ってしまったのは間違いだったかもしれない。触れてしまったことは間違いだったかもしれない。

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過去に恋した元彼は、過去の人のはずなのに、どうしてもどこか愛おしくなってしまう。
わかっている。いけないことくらい。だから一線を越えることはしない。お互い大人になったから、頭では理解している。だから、実際に愛の言葉を口にすることはないし、触れるのも事故のような形で触れるだけ、たまたま触れただけのような瞬間的なものばかり。

でもきっと、私の心と彼の心は本当は気づいている。触れたくて触れてしまったこと。
罪な女。自分が情けないと思った。8年前、威勢よく別れようと言ったのに、彼もそれに同意したのに、まだ嫌いになれない。いや、好きのままでいる。新しい彼と付き合っているのに、前の男のことが頭によぎるなんて、2人に対して失礼だ。わかっている。無礼なのは私だってこと。

今まで生きてきた私の29年は、病気もしたし、職場には恵まれなかったし、環境ばかり恨んでしまうこともあって、決して良い人生を歩んできたとは言えない。でも、すごく、すごく幸せ者だ。愛してくれる人がいるから。その点で言ったら十分すぎるくらい愛されているのかもしれない。でも、その愛が理解できるからこそ、罪悪感を抱く。

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元彼が私の腕をそっとさすって、「だいぶきれいになって……よかったね」と言った。あぁ、アトピーでボロボロになってたこと気にしてくれてたんだ。もう別れて8年も経つのに、そんなことも覚えてるんだ。そんなこと言われたら愛おしく感じずにはいられなかった。

だめだよ。そんなの。ずるいじゃん。優しい言葉かけて、優しく触れて、あなただって無理だってわかってるでしょ。私に新しい彼氏がいること知っているでしょ。なのに、そんな心がざわつくことしたらいけないよ。

私の心が揺れ動く。
元彼が、付き合っていた頃も、今のように立派に稼いで、私を大切にしてくれていたら、もっと違う結果になっていたかもしれない。……そう思わずにはいられなかった。だって元彼が私の初恋の人だから。
今の彼とは長い付き合いだが、彼は私がいることが当たり前になっている。私が触れても熱い時は熱いからあっちいっててと振り払ったり、重いと言っても90キロの巨体で馬乗りになったりする。それでも、もう結婚するでしょ?といった余裕を見せる。大事にするという心が薄れている。6年も付き合えば一緒にいるのが当たり前でトキメキという感情がなくなりつつある。
付き合いが長いとこうなるか……と思う反面、久々に会った元彼と比べて違和感を覚える。

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ダメだ。元彼と今彼を比べるなんてやったらダメ。少女漫画にだって、元彼と今彼を比べてモヤモヤするシーンがあるくらいなんだから、それが邪道なことは私にだってわかる。
でも脳で処理してしまうんだ。無意識に。口には出さないものの、心の中では比べてしまうんだ。
あぁ、なんてことだ。おそらく会うという選択が間違いだったのだ。でも、会ってよかったという自分もいる。付き合っていた頃とは比べ物にならないくらい立派になりすぎた彼を見ることができて満足している自分と、これほど素敵になったんだと切なくなる自分がいる。複雑の極みだ。

好きだよ。好き。でも、終わりにしなきゃいけないね。愛したあなたは過去の人。
ねぇ、本気で終わりにするには、私よりうんと可愛くて綺麗で賢くて優しくて魅力的で、到底私の勝てることのできない素敵な女性と一緒になって幸せになって。そうでもしないと私はきっと、またあなたに会いたくなってしまうから。