「ケイスケに告白されて、付き合うことになりました」
忘れもしない。大学2年生、ハタチのクリスマスだった。

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同じサークルのミナコから、突然「今日電話したい」とLINEが来た。嫌な予感がしたけれど、自分の中に湧いたその予感は無視することにした。バイトの後だったら話せるよと返して、店内の床が見えなくなるくらい大混雑するクリスマスのバイト先に向かった。

バイトが終わった後に待ち受けているであろうことを忘れる為に、その日は誰よりも笑顔で、誰よりも「メリークリスマス!」と手を振っていたら、退勤後に上司から賛辞のメッセージカードを貰った。

電話の内容は予想通りだった。薄々こうなるんじゃないかと思っていた。サークルの先輩達はここのところ、ケイスケとミナコがくっつくように茶化すのを楽しんでいた。
みんな何もわかってない。わたしが一番、ケイスケのことをわかってる。でも、サークルの仲間は何故か、ケイスケとミナコを両想いにさせたがっていた。
先輩達の冷やかしに乗っかって、その気になっちゃって馬鹿みたい。うんざりした。

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「チャミもケイスケのことずっと好きだって知ってたのに、ごめんなさい。でもこのことでチャミに嫌われたくない」
わたしがミナコを嫌わないと分かっていながらそんなことを言ってくるミナコにイライラもした。付き合うなら、わたしと絶交する覚悟くらい持って付き合えよ。
結局、先輩達の目や、サークルでの関わりがあるから、これからケイスケやミナコと会わないようにするなんて無理だ。それを分かって言ってるんだ。ムカつく。

ミナコとは、その2ヶ月後に二人でヨーロッパへ旅行に行く予約をしていた。
絶対にキャンセルするもんか。こんなことで行くのをやめるなんてダサすぎる。
わたしは気にしないからキャンセルしなくて大丈夫だよと伝えた。

その後、同じサークルのクミに電話した。もう深夜の2時を回っていたけれど、クミは出てくれた。涙なんて出てこない、クミに投げた言葉は全部怒りと疑問だった。
なんで?ミナコなんかよりわたしの方がケイスケのことを好きなのに!わたしの方がケイスケのことを幸せにできるのに!

ハタチのわたしは、この世の中で誰よりもケイスケのことを理解しているのは自分だと信じて疑わなかった。悲しい。辛い。苦しい。胸が痛い。でもここで泣いたらミナコに負ける、そう思って泣かなかった。

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あれから約9年。ケイスケのどこがそんなにも好きだったのか、わたしの方がケイスケのことを幸せにできるというあの確固たる自信はどこから来ていたのかはもうわからない。
結局わたしは、ケイスケを好きだということが自分のアイデンティティの一つになっていたんだろうなと、今になって思う。そのアイデンティティを友達だと思っていたミナコに奪われたから、あんなに怒りと疑問でぐちゃぐちゃになった。

ミナコとはあれから5回も海外旅行に行った。食の好みとフットワークの軽さが似ている友人と今でも付き合えているのは幸せなことだし、色恋沙汰で友人関係が壊れるのはダサいと思ったあの時の自分を褒めたいと思う。

お互い暗黙の了解で、二人でいる時にケイスケの話はしないようにしている。ケイスケは大学を卒業した後、医療系の専門学校に通い始めたと聞いた。
友人としての関係はしばらく続いていたけれど、今ケイスケが何をしているかはわたしもミナコも知らない。