約2年付き合った彼と別れた。
彼はセックスが、うまくはなかった。
いや、下手でもないとは思うが、乱暴だし、とにかく雑だった。
今思えば、よくもまぁそんな相手に高純度の愛を無邪気に捧げてたななんて思うくらいに物のように扱われても、ほとんど男性の身体をしらない、自分ですら自分の身体をしらない私にとっては彼とのそれは刺激的で、手放しがたいものになっていた。

初めて誰かと「したい」という思うようになり、ついに元カレに連絡

雨の続く夏の終わり頃、土日に久しぶりに自宅に引きこもり、動画配信サービスオリジナルの海外ドラマを観た。
セックスライフという、どストレートなタイトルにも、もう動じるような純粋さはない、としみじみ思う。

彼と別れてから、誰かと“したい”と思うようになった。
これまでも恋愛と恋愛の間が空くことだってもちろんあったのに、付き合ってなくてもいいから”誰か”と、思ったのは初めてだったから不思議だ。
でも、理由は何となくわかっていた。

喧嘩別れだった彼とはもう連絡は取り合っていなかった。「ごめんね」なんて下手に出るのも違うし、なめられそうで嫌だし、だからといって「元気?」なんて気軽に送れるほど、私たちの関係は元気じゃなかった。

土日に観た海外ドラマは私に「早く会いに行きなよ」って訴えてるようだった。
どうにも仕事も手に付かなくなってきた頃、ついに私からLINEをした。
不自然な誘いになってないか、このタイミングでの元カノからの誘いはありなのかなしなのか、女としてのこの判断は間違いじゃないか、
ネットにはない答えを何度も何時間も確認して、やっと送ってしまった。

用意した愛はきっと崩れ落ちる。わかっていたけど…

その日は金曜日だったから仕事が終わったら来ていいとの事だった。金曜日なのに思いのほか返信が早くて、付き合っていた頃も返信は早い方だったから、それを想起させられてウキウキを感じてしまった。
雨の続く夏の終わり、早めのお風呂に入り、メイクをし直し、髪を巻く。彼の好きだった香水を振り撒く。レースの繊細なセクシーな下着を纏って。
でも、きっと何もかも崩れる。

湿気でへたるとか、彼との行為がぐしゃぐしゃになるほど乱れる愛溢れたものというわけではなく、彼が彼のために用意された愛に見向きもしないという意味で。
可愛いなんて、絶対言ってくれない。

ところが、少し様子が違った。
部屋には入った瞬間、上品な香りがして、少し見回したところでワインレッドのディフューザーが目に入った。

そんなお洒落なの、買おうとなんてしたことなかったのに。
トイレを借りた時、香水や匂い系のものがよく置かれていた。使っているのを見たことがないボディークリームは洗面所の取りやすいところに無造作に置かれていて、それはもう既に半分くらいの使用感はあった。
やっぱり、匂い気するってことは、女の子呼んだりしてるのだろうか。なんならこれ、女モノ??

別れて変わった彼の部屋。別れても可愛いと思ってほしいと願う私

新しい彼の自宅は正直今の彼には手を伸ばしすぎくらいの部屋で、30代半ばの独り身の男が住んでそうな部屋だった。
洗濯もきちんと干してあって、生活感の面影といえば、キッチンのシンクに食器をためてるのと、ゴミ袋をそのまま床に置く癖くらいだった。
別れて、ほかの女の子たちを意識して、彼は変わってしまったのかもしれない、でもそれは嬉しい事かもしれない。

ブラのホックを外す時、特殊なホックだったから新しいブラだということに気が付いてくれた。
肩のあたりからいい匂いがしたからきっとさっきのボディークリームだ。
明日は朝から予定あると言いつつも、明日帰ればいいよと、隣で腕枕で寝てくれた。
私は帰り際のドアの前であえて、「また来てもいい?」と聞いた。

私の欲がまたウズウズしだした頃、また来てもいいと言われたのだ、前みたいにLINEを送るのに躊躇う時間はなかった。
しかし、送ってそれが文面に残るのはなんか癪だし、なんなら勢い余って電話してしまったオンナの方がなんだか色っぽいと思った。
私は、彼の事がまだ好きなのか、身体を忘れられないだけなのか、正直わからないままでいた。

恋に駆け引きは重要だけど、身体だけの関係には不要だということは、そんな関係これまでにない私でも弁えていた。
だけどあれこれ考えたうえで動こうとしてしまうのは、やっぱり未練があったのかもしれない。可愛いと思ってほしいし、もう一度好きだと言って欲しかった。

割り切って連絡したとはいえ、彼の気持ちが同じと分かると悲しかった

電話に出た彼は、空いている日程を送ると言ってすぐに電話を切ってしまった。
前のように身支度を整えて電車にゆられる。
部屋に入っても、ディフューザーはたしかにそこにまだあるのに、香りは落ち着いてしまっていた。

シンクは相変わらずだし、洗濯物は畳まれないまま積み重ねられている。
香水はおなじ場所にまたあったが、ボディークリームは置いてなかった。
部屋に入るとすぐに始まる。
そうゆう関係だからと割り切ろうと思って連絡したとはいえ、彼も割り切っていると思うと、なんだか悲しかった。

今回はローション使おうと、持ち出す彼だが、私が体内に入って問題ないものなのか確認してもめんどくさそうに「大丈夫だから」という返事しか返ってこなかった。
もっと簡単な、頭撫でるとか抱きしめるとかいう安心させる手段は、忘れちゃったのかい。
映画を挟んで二回目を致した頃には、なんだかすべてが落ち着いていた。
彼に絶望するわけでも、嘆くわけでも、憤慨するわけでもなかった。

行かなかったら分からないままだった。会うのをやめる決心をした日

もう少し一緒にいたかったが、これからオンラインで友人らと麻雀をするらしく、やんわり断られてしまった。
「いいけど、まぁ。明日仕事あるんだし帰った方がいいと思うよ」と。
ただもう、その時決心できた、会うのはもうやめよう。と。

2回会いに行ってわかった。
たぶん行かなかったらわからないままだった事。
だから会いに行ったことを後悔はしていないし、むしろいい夜だった。
1回目会いに行った日の夜、彼は「時々東京にいると、何してるんだろう俺。ってなる時がある」と話した。
彼がそんなふうに思わなくなればいいと祈った。
できれば私が、そう思わなくて済む理由になれればと願っていた。