「早く目を覚ませ!」と夢の中の自分に言われ、汗だくで目を覚ましたのは何回目のことだろう。
まだ辺りは薄暗く、もうひと眠りできる時間のようで、隣の彼はすやすやと眠っている。
一つ溜息をつき、改めて眠りにつく。

◎          ◎

私は中学、高校、短大と吹奏楽部に所属しトランペットを演奏していた。
中学時代は適当に部活をこなしていたのだが、当時吹奏楽が強豪校だった高校に入学した。

まともに部活をしていなかった人間が強豪校に入って練習についていけるわけがない。
朝練、昼練、放課後練、外周ランニング、パート練習、外部講師のレッスン、分奏、合奏……。
毎日いっぱいいっぱいだった。
休日も返上、長期休暇である夏休み、冬休み、春休みも部活部活部活……。
きっと当時の私は家族といる時間より、吹奏楽部の部員といる時間の方が長かったに違いない。

「文武両道」を掲げていた高校だったため、勉強も出来なければならなかった。
赤点をとった人は次の演奏会や大会への不参加(不参加期間中に反省文&勉強する)というペナルティがあった。
赤点をとることのないよう、成績が上がるよう、授業の予習復習、テスト勉強は寝る前と朝練後にこなした。

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練習にも勉強にも慣れ始めた頃、ソロパートのある譜面が回ってくるようになった。
演奏会でソロパートを吹く人は、立ってスポットライトを浴びながら演奏するのだが、私はソロパートが嫌いだった。
音を外すと、目立った状態で恥ずかしい思いをする「公開処刑状態」になるからである。

私の所属する吹奏楽部は毎年、交響楽団が利用するような大きいコンサートホールを借りて定期演奏会をしていた。
大事な演奏会になればなるほど、観客が多ければ多いほど緊張が凄まじいため、音を外しやすくなる。
そう、私は3年連続、定期演奏会でソロパートを外した。
その時の部員や顧問の冷ややかでがっかりした顔は今も鮮明に思い出せるし、簡単に忘れられない。
まさに私にとって消したい過去、人生の汚点、黒歴史、パンドラの箱なのである。

……そんな私も無事高校を卒業し、短大で吹奏楽部に所属した。
短大の吹奏楽部はそれはそれは緩く快適な活動だった。
練習をほどほどにこなし、カップラーメンやお菓子を広げてパーティーしている時間の方が多かった。
最高だった。

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短大時代の最高な部活時間の方が記憶に新しい筈なのだが、私は今でも高校時代の部活の夢を見て、夢の中の練習や合奏、演奏会でも散々な失敗を起こし、冷ややかでがっかりした顔を向けられ罵詈雑言を浴び、楽器を取り上げられたうえに退場させられて目を覚ますのである。

夢のような酷い出来事が実際にあったわけではないし、高校時代の部活が嫌いだったわけではない。
楽しいこともあったし、肉体的にも精神的にも強くなるきっかけになり、自分にプラスな充実した時間だったことは間違いない。
しかし、私の睡眠を妨げる悪夢は必ず高校時代の部活であり、そんな悪夢を未だに見ているなんてことは誰にも知られたくないのである。