保育園の年長さんの時のこと。5歳の私は一目惚れをした。
相手は同じ年長さんクラスに転園してきた男の子。少し面長で、すっきりした顔立ち。
決してイケメンではなかったが、なぜか彼に惹かれた。
後にも先にも、これが私の人生で唯一の一目惚れだろう。

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彼と同じ小学校に進学した。同じ学区内で、路線バスで通学していた道中に彼の自宅があった。路線バスで登下校するたびに、彼の家を眺めるのが密かな楽しみだった。
彼とは保育園の頃と変わらず、遊んだり、からかい合ったりしていた。
そして、片思いも続いていた。

小学4年生か5年生の頃、クラスで彼が私のことが好きだという噂が流れた。
私も一部の女友達に彼が好きだと相談していており、その情報が漏れた。
クラスメイトに一斉にはやし立てられた。私と彼は両思いだったのだ。嬉しかったが、それ以上に恥ずかしかった。
私も彼も恥ずかしがりながら否定した。なので、私の中では両片思いということにし、お互いあまりそのことについて触れないようにした。

中学校も彼と同じだった。
体型に男女の差が顕著に現れたこと以外、変わらず話したり、からかい合っていた。
私は彼に変わらず片思いしていた。彼はどうだったか分からないが。
中学に上がると、思春期ならではの悩みを持つようになった。その相談相手の一人に、彼がいた。恋愛感情以上に、人として信頼していたのだと思う。

そして中学3年生。受験生のため、生徒それぞれが志望校を選択し、受験勉強に取り組んだ。
私は地元で有名な進学校、彼は就職に強い高校に進学した。
別々の高校に進学し、彼との接点は大幅に減った。登下校中にたまに顔が合って、軽く話をする程度だった。
私は自分の高校で好きな人ができた。
保育園から続いた約10年間の片思いが幕を閉じた。

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それから数年が経ち、成人式のために地元に帰った。
私は地元から離れた大学に進学したため、中学校時代の同級生と会うのはかなり久しぶりだった。
成人式は女友達と一緒の席に座り、市長のやや長めの祝辞を聞いていた。

成人式後は同窓会に参加した。中学校時代の同級生とお酒を飲み交わすと、成人したんだと改めて実感した。
友達や先生と近況報告や思い出話をした後、かつて片思いしていた彼と目が合った。
声をかけてお互い駆け寄り、彼と話をした。
彼との会話は楽しかった。でも、違和感があった。

彼は高校卒業後、地元で就職した。仕事について生き生きと話していた。
昔は家族の愚痴ばかり言っていた彼が、親孝行したいと言っていた。
しかも、私のことを「きれいになった」と言ってくれた。昔は絶対そんなこと言わなかったのに。

彼との間に溝を感じた。彼は仕事をして、稼いで、生計を立てている社会人。一方の私は、勉強したり、たまにサボったり、遊んだりしている自由な大学生。
難関大学に進学した私を褒めてくれたりもしたが、私より先に大人になった彼に置いて行かれたような気がした。

彼とは1時間ほど話した。あっという間で、後味が悪かった。
会話中に「お前ら結婚すればいいのに」と、他の同級生から野次が飛んだ。
小学校時代の両思いの噂が広まった時よりも恥ずかしく、なぜか寒気がした。

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今後、地元に帰った時、同窓会が開催されることになった時、きっと私は彼に再会するかもしれない。
再会するのが怖い。社会人になった今でもまだまだ幼いと自覚している私は、さらに大人になった彼を受け入れることができないだろう。

ある日、彼が夢に出てきた。夢の中で彼は私に声をかけ、何かを訴えていた気がする。
それ以外、数時間後には夢の内容をきれいさっぱり忘れてしまった。