家族ぐるみで付き合いのあるAちゃんとお茶をした時のことだ。
Aちゃんは私より少し年下だ。少し大人びているからなのか、人を見下すところのあるAちゃんだが、友好的に話しかけていればそういうところは引っ込む。
負けず嫌いなんだな。仕方ないなと思いつつ、年上の余裕を見せていたら、何かとよく話すようになった。

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そんなAちゃんがぽつりと「弟くんはいいな」と言い出した。
この弟くんとは、私の弟のことだ。弟は友達が多いだけで、特にいいところもないけれど、何故か最難関大学に進学した。
両親なんかはしばらく実感がなかったようだが、「どこの大学に行こうと、うちの息子に変わりはない」とか「こんなことで調子に乗ってはいけない」と言い、周りの学歴至上主義に流されまいとしていた。それほどまで、この肩書きは大きかった。弟は普通の人間なのに。

一方、Aちゃんは有名私立大学に進学。偏差値も申し分ない大学なのに、弟と比べて気にしているらしい。「弟くんに勝てなかった」というようなことを言っていた。
私からすればどちらもいい大学で、何を言い出すのやらと呆れたものだ。

「充分いい大学じゃない。何が不満なの?」「AちゃんはAちゃんでいいところがあるからいいよ」と言っても、表情は変わらない。
「じゃあ私はどうしてくれるの?」と笑いながら、とりあえずそこらへんの大学に進学した私は言ったけれど、そんなのは関係ないらしい。多分眼中にないのだ。

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よくは覚えていないけれど、私と弟はそれぞれ違ういいところがあるから良いと育てられてきた。だからそれでいいと思っているし、Aちゃんもきっとそうだから気にしなくていいというようなことを言ったと思う。なかなか簡単には変わらないかもしれないけれど、「くじら家が羨ましい」と言っていた。お店で解散して、晴れやかな顔でAちゃんは帰って行った。

バイト先の先輩のBさんも同じだと思う。
先輩とはいえ同い年。同じクラスにいても、あんまり話すことはなかっただろうなという感じの、アンテナ高めでしっかりギャルなお姉様だ。流行には無頓着で、輪を乱さない程度に自分の好きなことをしている私とはタイプが違う。

付かず離れず、上手くやってきたつもりだったのだが、何か急にBさんが私を悪く言うことがあった。周りの先輩は「一方的なもの」「まだまだ子供なんだね」と言っていたが、さすがに気になる。よくよく聞いている中で、BさんもAちゃんと同じだと気がついた。

2人とも世間の小さな物差しで、目盛りもあっているんだかよくわからないようなもので人を見て、勝った負けたと一喜一憂している。見下していたから腹が立つし、負けていると思えば思うほど惨めになる。
いやいや、こっちは勝ったとか思ってないけど?そもそも負けたとも思ってないし、何勝手に勝ち負け決めてくれちゃってるわけ?と、心底呆れたけれど、こんなもんなのだ。

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この仕組みを知ったのは、友人のCのことがきっかけだ。正社員で働くCは、多忙を極めていた。アルバイトで時間的余裕がある私は、大変だねと相槌を打って聞いていた。

Cは忙しいから、惣菜に頼ることも、外食が多いことも当たり前だ。掃除だって全部に手が回りきらないから、多少は省けるよう工夫しているというのも、賢明な判断だと思う。しかし、そのことに同意を求められても困った。

私はほぼ全部自炊だし、外食もたまにしか行かないし、掃除はまぁ適当だけど、他のことを制限しない程度にはしている。そもそも、こちらは母と私で主婦が2人もいる。当然私の家事負担は少ないのだ。

楽しているようで気にくわないのか、C以外の友人たちにはいろいろ言われた。「働かないの?」とか「お金ないと大変だね」とか。余計なお世話だし、好き好んで選んだ道だ。あとお金は足りてる。口を出されたくはない。
何を言っても揺らがない私は、しまいには「私は彼氏が同い年で収入が少ないから、働かなきゃならないんだ」と凄い勢いで言われた。言っている内容は穏やかだけど、口調が全然穏やかではなかった。初めてその子を怖いと思った。

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Cはそんなことは言わない子だと思っていた。多分家庭的なことでも、私には負けていないと思っていたからだ。Cに同意を求められ続けて、正直なことを言ってしまった。その時のCの表情は忘れられない。
最初はCを傷つけてしまったと心配したけれど、よくよく考えてみれば、そんなことで傷つくのはおかしい。落ち着いてから、私のことを舐めくさっているんだと認められた。しかしそれに気がつけたのは、私にも思い当たる節があったからだ。

友人と、学校近くの喫茶店でお茶をした時のことだ。木造で雰囲気の良いお店は、デザートがかわいいと有名で、珈琲もカップが一つずつ違い、ハンドドリップで一杯一杯いれるこだわりのお店だった。
その店の窓側の席に、同い年くらいの女性が一人で座っていた。そこで書類らしいものを広げ、一人でくつろぐその人に、私は何故か苛立った。
友人と話す口調が、少し荒くなっていたかもしれない。ただの嫉妬だということはすぐにわかった。それでも認められなくてずっともやもやしていた。我ながら情けなさすぎて、自分がこんなことで嫉妬する小さい人間だと思いたくなかったのだ。

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何か他に理由があるはずだと思って探した。探しても探しても、その人には何も悪いところはなくて、そんなのは当たり前で、私は元から、小さなことで他人に嫉妬する嫌な奴だったと思い出した。
ただ身軽に一人で来ていたというだけのことで、勝手に見下して、見下していたはずの人より下になってしまったから、相手を憎んだのだ。そして自己嫌悪に陥る。いいことは一つもなかった。

私は本当にいやなやつだ。それを認めてしまおう。そしてこれからは気をつけよう。あの女性は間違いなく、私よりずっと優れている。私もああいう人になるには、どうしたらいいんだろう。そう思ったら、途端に嫉妬は無くなった。

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あまりに今の時代、彼女らの考えが強すぎる。かがみよかがみ世代も全体的に振り回されがちなように見える。周りを見ていると、年上の人はそうでもない気がする。周りの年上の人たちは皆そういうものを「子供っぽい」と流しているからだ。

それなのに私は、私を非難する必死の大きな声にだけ耳を傾けて、大事な周りの人たちの声を聴いていなかった。私が私を大事にしなくてどうするの。皆が大事にしてくれる私を、どうして私が大事にしないの。

彼女らはちょっと幼稚なだけの、普通の人。悪い人ではないのは知っている。そのことさえ理解していたら対応はできる。対応程度で充分なのだ。それ以上はない。
友達が減って、数人だけになってしまったと泣き言を漏らしたら、よく相談するお姉さんから「それだけいれば充分」と言ってもらった。これでいいんだ。

悪いところは、しっかり認めて反省するのがいい。気の置けない人は、少しいたらいい。大丈夫。きっと生まれ変われる。そのくらい大きな変化が待っている。こっちの世界は楽しいぞ。