弟は、私より出来がいい。
だから私よりすぐになんでもできるようになる。勉強だけじゃなく、ちょっと頭を使うことは全部そうだ。動作だってすぐ覚えるから、私は自分がどうしようもなくダメな人間だと思っていた。普通なのは自分の方だということは後になってから知った。
勉強が全てではないにしろ、勉強ができると何かにつけ有利だから、差は余計大きく感じた。
私は勝手に弟を羨みながら漫画を読むばかりだった。弟は勉強をしていたのに、私は何もせずただ羨んでいた。

ある日とうとう弟に叱られた。羨むばかりで何もせず文句を言うなんて最悪だ。せめて手を動かせ。と言われた。
努力が足りない。文句を言うな。他人を頼りすぎるな。できる人は皆努力してる。できる人さえそうなのに、くじらが文句を言うだけじゃ何にもなるわけないだろ。
もっともな言い分だった。彼だって何も持って生まれたものだけでここまで来たわけではない。私はそのこともよくわかっていたはずなのに、弟との差も、社会の理不尽も、文句だけ言ってなんとかしてもらおうとしていた。
そして私は勝手に腹を立てた。が、言い返せなかった。
最初は、弟なんて「年下のくせに何を言うのか」と思ったが、弟の言い分を最後まで聞いている間に、私はすっかり落ち込んでそんな考えもどこかへ行ってしまった。そのくらい落ち込んだ。弟の言葉は、私の痛いところをもろにえぐっていたし、正論すぎて反論の余地はなかった。

弟の指摘はもっともで、言う通りにしてみたら世界が変わった

どん底に落ちたらあとは這い上がるのみ。
弟の言葉を受けて、努力をすることにした。愚痴を言う前に手を動かすことにした。その上でたまる愚痴は仕方ないにしろ、何もする前から文句を言うことはやめたのだ。
すると、遠巻きにこちらを見て文句を言っていた人たちも声をかけてくれるようになった。前より多くの人と話すようになった。何より、自分の気持ちが明るくなった。
私の周りは以前より賑やかになり、小さいながらに、ちょっとやそっとでは揺らがないような自信もついた。
周りの成果を喜び、自分も頑張ろうと思えるくらい自尊心もついた。弟への嫉妬も消えていた。
堕落し、周りを僻み、自分が嫌いで、そのくせ何もしない。そんな私からは卒業したのだ。
それまでの私は、本当にしょうもなかった。

「女だから」と見下されてきたのに、私も属性で人を判断してしまった

そして思い返してふと思った。
年下のくせにってなに??

ひどい言い分だ。もし自分が言われたら相手のことを、狭い考えしかないかわいそうな人なんだなと見下したに違いない。
そもそも年齢で人を判断するだなんてバカバカしい。そんなことで人を低く見るなんて最低だった。
自分もそう言われる立場だったのに。

耐えきれなかった人の話を聞いて「バカだね」と言ってしまった

彼氏には少なくない数の部下がいる。その中には女性もいて、彼女らの抱えるものについて彼から相談を受けてきた。
その中の一人に、男性に女性だからと悪く言われ、反論して大ごとにしてしまった子がいる。慰めてやってくれと言われた私は一息に言った。
「バカだね。その程度の小物、あとでいくらでもやり返せたのに。」
実力至上主義の世界ならそうだろう。
でも今になって、ちょっときついことを言ったかなと反省している。

私の場合は、本当にできない頃は周りの人たちが庇ってくれていた。彼女の周りに庇ってくれる男性がいなかったのは不憫だ。だから先の言葉を言っては彼女もかわいそうだったかもしれないが、女性が男性ばかりの中で生きてく厳しさを知っている以上、私にとってこれ以上優しい言葉などなかった。

年齢や性別でバカにしてくるあの人は、本当は私のことを羨んでいる

陰口でも直接でも私は、女だから、若いからと罵詈雑言をぶつけられまくった。時には人権無視レベルのものもあったが、私は気にならない。その場で言い返してくれる味方がいるから。そして、その程度の人たちを驚かせることができるくらいの実力は持っているから。

そもそも上の立場にある人が目下の者を守るのは義務だろう。女だから、若いからなんてことを理由に悪く言う人がいたら、上司は言い返すべきだ。同僚だって味方につくべきだ。それをしない上司にこそ女性は憤るべきだ。
男女で差はあったとしても、女性が男性に比べ劣っているわけなんてないんだから、堂々としていればいい。
悪口を言った相手は、私が本当はできないわけではないと知ると、かわいそうなくらいにへこんで帰って行く。そんなものだ。

そしてその人たちと、弟にキレかかりそうになった時の私は同じだと思った。
男だから。年上だから。なんて理由で相手より偉くなった気でいたのだ。それなのに全敗して、自分が劣っていることを認めざるを得ない状況になってしまった。
そんな人はどっかで痛い目に遭う。いつか必ず遭う。そういう話はよく聞いている。
だから有能な女性の皆さんは安心して無視していればいい。

なぜ有能な女性の皆さんと言ったかというと、そういう人たちが文句を言う相手は「自分より弱い立場にあるにも関わらず、自分が羨むものを持っている人」だからだ。「有能な私たち」は気にしなくていい。

だからどうか、こんな人に打ち勝つために努力をするのはやめて欲しい。あなたの人生はあなたのために使って欲しい。それはあなたのための努力であって欲しい。
ああいう人と関わってはダメだ。
それでもその相手が身内や親とかで、仲良くしたいのなら、その相手も抱えているものがあるのだと理解して歩み寄ればいい。敵対しても何にもならない。
仕事でも家庭でも、そんなのはどちらだっていい。その人が心から幸せだと思える生活を選んで欲しいと思う。