上京し、一人暮らしを始めて5年目にもなると、1人で生活することの楽しみ方が分からなくなった。普通はだんだんと慣れるものなのだろうが、私はなぜか年々孤独を感じている。

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この生活をスタートしてすぐは何もかもが新鮮だったので、1人でどこへでも足を運んだ。
行きたいと思えば近所を散歩するのと同じくらい気軽に、電車で片道45分以上はかかる街へ行ったり、全然近所じゃない街の夏祭りを見にいったり、時には埼玉や横浜にも「このお店に行ってみたい」という好奇心から出かけることが多かった。そのおかげで最初の1、2年はほぼホームシックを感じることなく、東京での1人暮らしを送っていた。

しかし、今はあの頃とは真逆で、1人行動ができなくなった。
買い物先や週末に出かける場所はほぼ固定。SNSで紹介されているお洒落なカフェやお店を発掘したくても、出不精ぎみのせいか、今度誰かと出かける時に行けばいいや、と行くのを諦めてしまう。週末によく行く商業施設内にある未だ入ったことのないお店に入る勇気すらいつの間にか失くした。
1人行動は気軽で楽しい。でも気軽さや自由と引き換えに、その瞬間の楽しさや感情を共有する相手がいない寂しさに気づいてしまった。「おひとりさま禁止」の店や場所なんてないはずだけど、そんな気持ちに気づいてからは行きつけのお店以外、1人で入るのを躊躇うようになった。

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そんな中、つい先日高校生の妹が東京へ遊びにきた。
妹は今回の東京旅をかなり楽しみにしていて、その姿を見てると私もいろんなところに連れていってあげたくなった。でも特に目的や予定のない旅行だったので、近場でぶらぶらしようという話になり、私がよく行く近くの大きな駅周辺を色々と見て回ることになった。行き慣れている駅や駅周辺の街、商業施設を案内しながら歩いていると、妹は「あの店入ってみたい」「あれ美味しそう」と言ってたびたび足を止めた。

それが私にはとても新鮮だった。
歩き慣れた街、行き慣れた駅やお店。それなのに、妹が「入ろう!」と言う場所は、住み慣れたはずの私が気づいてなかったり、初めて知るお店ばかり。こんなところにこんなお店があったんだ、とか、この道何度も通ってるのに気づかなかった、なんて内心驚きながらお店に入る。
私だけならきっと目にも留まっていなかった。というか、実際に景色と化していた。
古着屋や雑貨のお店、お洒落で美味しいパン屋、KPOPのグッズ販売店、タワーレコード、韓国料理屋、タルトケーキのお店……。興味なかったけど、入ってみると案外良い店も沢山あった。今まで私が見慣れていると思ってた街はモザイクがかってたのかよ!とツッコミたくなるほど、さまざまな店がこの街にはあった。

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徐々に輪郭がはっきりしてきて、一つ一つの形がはっきりとわかって、こんな絵だったのかとわかる時の気づきと嬉しさ。そんな気持ちだった。

最終日、妹に付き添って空港まで見送りに行った。搭乗手続きを終え、「ありがと!また来る」と言いながら保安検査場へと消えていく妹に手を振りながら、両親に「今、保安検査場入ったよ」とLINEを入れる。すぐに既読がつき、「家に泊めたり、面倒見てくれてありがとうね」と返信がきた。

私の方こそ、“ありがとう”だ。妹が遊びにきてくれたおかげで、住んでいる街の解像度が上がり、1人では入る勇気が出なかったお店や素敵な場所も沢山発掘できて、冒険と発見の5
日間だった。人混みや騒がしさで正直飽きていたこの街を久しぶりに楽しめたし、何よりこの5日間で沢山の楽しみ方と気づきを教えてもらえたのだから。