わたしは基本、何をするにも人より時間がかかる方だ。
中でも新しい環境に馴染むのがすこぶる苦手。
学生時代は特に、卒業の後すぐの入学に、毎年のクラス替え、時間割まで変わって、もうとにかく大変だった。ルーティーンのようなものに安心を抱くタイプなのだと気がついた時には成人済み。あの頃のわたしは本当によく頑張った。

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その分大人になってからは、慣れない自分がめちゃめちゃに悲鳴をあげるようになった。
食器が変わるたび、家具の配置が変わるたび、自転車が変わるたび、職場が変わるたび。
そんなに大きな変化でないと自分にいくら言い聞かせてもダメな時はダメ。ばちばちに体調を崩してしまう。

慣れるにはわたしの気力や努力よりも、時間の力が必要だ。
そう理解し、でもまだ現在進行形で解決してもらっている話。

子供の頃から環境の変化に半年から一年を必要とするわたし。
そんなのクラスにやっと馴染んできたと思う頃にクラス替えで、どうにもならない。
気温が高い時期に慣れてきたと思うと冷え込み始める。

いろんなちょっとずつの変化に揉まれつつ、一番苦闘しているのが職場のこと。
今働いている店舗には勤めて2年半くらいになる。
そんなに慣れるのが大変なんてよほどのブラックなのか。
全然そんなことはない。
無理なシフトを押し付けられることもないし、有給だってきちんともらえる。
店長も上の人たちもびっくりしてしまうほどに嫌な人がいない。
お客さんも取引先の人も、親切だなあと感じる毎日。
こんなに素敵なところでお金を稼ぐのは初めてのこと。
入ったばかりのわたしはとても喜んだ。ここならわたしにも余裕だきっと楽しいし、すぐに慣れられると。

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2年半経ったいま、現実って複雑だなとしみじみ感じている。
親切な上司に、お客さんに、取引先に、自分のせいで迷惑をかけることがとてつもなく辛いのだ。わからないことを尋ねたいのに邪魔はしたくない。
自分のミスを指摘こそしてくれるも、きつい言葉はぶつけられずに、代わりになんとかしてくれようとする人を見ているのは苦しい。
縛られて怒鳴られていることの楽さを感じてしまう。以前の自分には信じられないことだ。

こんなに、早く覚えよう、できるようになろうと本気になったことはなかったかもしれない。
楽しくて温かくて、自分の心がピリッと痛む毎日。
嫌われたくない人に面倒をかけてしまう申し訳なさ。
その後に顔をあわせる時どうしたらいいかわからないこの辛さ。

どんなにのんびりなわたしでもきっと、時間が解決してくれる。
そう信じて今日まで頑張ってきて、とても楽しいこともたくさんあった。
同業者や同じ会社の他店舗の知り合いもできた。
その人たちと新商品の売れ行きの話をしたり、どんな売場を作ろうかと意見交換をしあう楽しさといったら!

なんて素敵な仕事だろうと何度思ったことだろう。

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わたしは今でも一人前になれていないし、ミスもするし、迷惑もかけてしまう。
自信のなさでいっぱいいっぱいになり帰宅する日もまだまだある。ほんの少しだけ減ったけれど。
時間の力を感じている。
もっと回数を積みたいなと思う事例がたくさんある。次こそはと思う毎日。
元気が出ることの方が増えた今、生意気に将来像を描いている時もある。余裕ができたら、力がついたら、こんなことがしたいなと。

その度に時間が必要になるのであろう。
わたしは今、やっぱり諦めないことの大きさってすごいなと感じている真っ最中。