「あなたの笑顔のおかげで」と、今まで28年間生きてきた中で、同じようなことを何度か言われた。

初めて言われたのは、高校の演劇部の顧問の先生からだったと思う。卒業のとき手紙に「あなたの笑顔に何度も救われました」と書かれていたのだ。嬉しかったのとびっくりした。
それまでの私は、どちらかというと根暗で目立たない印象だったと思う。高校に入り、それまでの自分なら選ばない演劇部に入り、経験したことが、こんなにも自分を変化させるとは思わなかった。
成り行きで入部したが、3年生になる頃には中心となって部員をまとめたり、各部署のバランスを保つ役割が付いていた。その経験があったから「笑顔」という強みが出来たのだと思う。そしてそれに気が付かせてくれた先生に、感謝の気持ちでいっぱいだ。

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高校を卒業後、私は食品を扱うお店のレジを委託される会社に入社した。
取引先の店舗のレジ業務を行うので、来店される方も取引先も、両方お客様となる。私が入社する前に社員が辞めており、何もわからない私には「仕事とは何か?」「自分の役割とは何か?」を学ぶ、見本となる人がいなかった。パートさんや、たまに来る上司を見ているうちに、私は私側のパート・アルバイトと取引先である店長や社員さん、パートさんたちとのパイプ役で、どう立ち回るべきかが分かってきた。

とはいえ、年上ばかりでどう接したら良いか迷った。さらに店長や社員さんの異動の度に店舗内での仕組みが変わり、擦り合わせや共有なども重要だった。社員なのだから、在籍の長いパートさんよりも偉くならなきゃと気を張っていた時期もあったが長くは続かず、関係作りも難しかった。仕事に行くのが嫌で、上手くいかないのは会社や相手のせいにしていた。

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ある日、近所のおばちゃんが私の母に「娘さん、いつも笑顔であいさつしてくれて気持ちがいいわ」と話をしたようで母が私に伝えてくれた。
単純に嬉しかった。そしてそのままの自分でいいのかもと思えてきて、仕事でも無理をしない接し方に変わっていった。パートさんとの話や仕事が楽しくなって、自然と笑顔が増えていき、たくさん話しかけてもらえるようになり、可愛がってもらえた。

最後にお世話になった店長は、歴代の店長や取引先の社員さんの中でも特に関わってくれた。その店長は、普段は無気力でやる気のない、とっつきにくい感じの人だが、理想としているお店作りについて気軽に話し合えたり、楽しいイベントの企画を立てたりして面白い人だった。人見知りのようで初めの頃はなかなか話が出来なかったが、いつも笑顔で挨拶するうちに気に入ってもらえた。

ある日、私がお釣りをお客様に多く返してしまい店長に謝りに行った。「ミスは仕方ない。笑顔のお前じゃないと調子が狂うわ」と励ましてくれた。
そして就職してから7年経ち、結婚のために退職をすることになった。パートさんの中に「いつもその笑顔に癒されていたよ」「その笑顔があれば大変なことも大丈夫だね」などと言ってもらえて嬉しかった。

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結婚が決まったことを母に伝えるために手紙を書いた。翌日、母から返事の手紙があり、その中に「いつものスマイルを大事に」と書かれていた。
父曰く、母は3姉妹の中でも私といるときが一番嬉しそうだと言う。私は大好きな母が嬉しそうなのを見て、私もよく笑っているなと思う。
平和主義で言い争いが苦手で、いつも私の中では自分のために笑っていた。それが結果として人と人をつなぐような役割を果たせて、周りに影響を与えられていたのかと思うと、驚きと嬉しさがある。

「あなたの笑顔のおかげで」と言われる度に、自分に自信のない私は認められたような気がして少し自信が湧く。おかげで話してみようと思ったり、行動してみようと背中を押されていると思う。
心が疲れてきて素直に笑えていないと、自信もやる気もなくなっていく。何かのきっかけで笑えたら、それまで進まなかった物事がトントン拍子に進むことがよくある。
笑顔は何か引き寄せられる力があると思う。私は笑顔のおかげで自信がつき、良い人に恵まれたと思う。
落ち込むことや頑張りすぎて疲れてしまって心の余裕がなくなった時には、自分で「笑顔が素敵だよ」と声を掛けて、背中を押してあげたい。