バイト先で車関係のコーナーを通ると、ふと昔の苦い感覚が蘇ってくる。
でももうバイトし始めて半年が経過したからか、あまり苦い感覚もなく、ひとつの経験として昇華することができるようになってきた。

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私は前職で車関係の仕事に就いていた。
2年前に精神疾患で休職をした時には仕事復帰への執着がすごく、そのぶん立ち寄るお店で車関係のコーナーを見つけると、胸がぎゅっと締め付けられるくらい苦しかった。
それと相まってかわからないが、疾患の発作で過呼吸になりかけたことも何度もある。
だから、そのコーナーには寄り付かないと自分の中で決めていたくらいだった。

でも、転機は今年の2月に訪れる。
実は、昨年の11月に休職期間満了に伴う退職をしている。
仕事できるコンディションまで整えたことは評価されたものの、持病と化した精神疾患の治療薬が会社規定にそぐわなかったからだった。
そんな私を拾ってくれたのは、大学生のときにも働いていたバイト先の書店であった。

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2月から2ヶ月間くらいは、久しぶりのカウンター対応の復習と私が一度店を離れてから増えた新しいオペレーションを習得するのに集中していたけれども、コンスタントに出勤してカウンターのオペレーションそのものには慣れてきたこともあってか、同じカウンターに立つ時間帯のスタッフの中ではなかなかいない、業務の一環で様々なジャンルの雑誌コーナーを巡る仕事を2つほど任せていただけることになった、その時のことである。

任せていただいた直後、業務で使う雑誌タイトルリストを見てみると車関係がとても多く、前職に対して未練が多々残っていた私は、そこのコーナーに行くことが正直しんどかった。
心の中では「雑誌で車を眺めるくらいなら、前職の企業に戻って実車を触ってお客様に営業をしたい!もしくはその関連業務に就きたい!!」とずっと想いが燻っていたからだ。

そんな私が書店に出戻りして半年が経ち、そこまで未練がましい想いが強く出なくなったのは、「前職あっての私だから」と考えを切り替えられるようになったからだと思う。
というのも、私の勤務する書店では日々多くのお客様が来られる。もちろんご来店が初めてという方も居れば、定期的に訪れてくれるリピーター客もいる。前職もその点では同じであった。

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前職では時間をかけてできたことではあるが、お越しくださったお客様に対して私ができることとして「最高のおもてなしを数分間で提供すること」と念頭に置いて考えた動きをしていたということもあるが、私にはもうひとつの武器がある。

そう、「記憶力の強さ」だ。今は学生時代と違って少し記憶力が衰えたような気がしなくもないが……。
前職ではお客様の顔と名前、そして担当スタッフをなるべく覚えて、全てのお客様を自分のお客様のように対応していた。

この持ち前の強い記憶力とお客様からも「一生懸命」「丁寧」と評されていた自分のおもてなしスタイルを書店で活かせるように変化させられたからか、書店に来られるお客様からもちょっとした雑談で「あなたの対応は一生懸命ね」「いつも丁寧な接客をありがとう」と言っていただけることが多くなったし、自分自身も定期的に来られるお客様に対しては顔だけでも覚えてご愛顧いただいている御礼を伝えると同時に、「確かこの人は毎回レジ袋をご用命だったな」「この方の注文とるときはいつも◯時頃がご連絡希望だったな」などと必ず確認はするものの、他人行儀の対応ではなく「普段何時頃にご連絡希望で承っておりますか?」「本日は有料のレジ袋ご入用ですか?」と相手方が常連さんであるからこそ、その人に合わせたおもてなしを心がけるきっかけにも繋がった。

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これらの経験がたくさんこのバイト勤務の中でもたくさんあったからか、気づいたらバイトし出しての半年強で前職に対する未練や苦い感覚は薄れていった。
しかしながら、完全にこの苦い感覚や未練が拭い切れていないのは事実である。

それでも私が「前職あっての私」「これも一つの経験だから」と割り切って、今のバイト生活において自分のおもてなしの姿勢をアップグレードさせて仕事をしていることも事実である。この境地に至るまで、トータルすると休職してまもない頃からを含めると丸々2年かかったが、前職での経験は本当に私を大きく進化させてくれた。

書店で勤務する日々が前職での苦い感覚を薄れさせてくれたこと、これが私にとってまさに「時が解決してくれたこと」になるだろう。
まだまだ解決できることは大いにあると思うが、一つの区切りとしてはいいタイミングなんだと思う。
これからももっと頑張るぞ、私。